甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1998年12月11日発売)
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感想 : 149
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山田風太郎の送る忍法活劇帖。家康の跡目争いに巻き込まれた伊賀と甲賀。一癖も二癖もある忍者たちが、己が才能を賭けてぶつかり合う! 秀逸なのはやはり戦闘描写だろう。能力こそ、今の時代から見れば目新しいものはないが、それも当然で、これがほぼ元祖のようなものだからである。まさに奇想といって差し支えない能力であり、その異形異様さと相まって頁を繰る手が止まらなくなる。白眉なのは戦闘のリアリズムであり、不意打ち騙しうち上等で、能力の相性に運否天賦が掛け合わさり、勝負はほぼ一瞬で決まる。そこには引き伸ばしのようなダラダラした戦闘はなく、またお互いの能力の品評会のような闘いでもない。そこにあるのはまさに命のやり取りのみであり、凡百のバトル漫画やラノベにありがちな無駄な戦闘は一切ないのだ。それがいい。また能力を紹介する際のアジテーションも上手く、ケレン味たっぷりの口上は読んでてゾクゾクするものばかりである。この強引な語り口は西尾維新や奈須きのこなどの伝奇作家にしっかりと受け継がれており、今の時代に読んでも遜色なく、その魔術的な語り口は様々な読者を魅了するだろう。かくいう自分もこの一冊ですっかりとりこになってしまった。文章も時代小説の皮こそ被っているものの、実態は突飛な異能バトルもので、時代小説の雰囲気をぎりぎり崩さない程度に「遊んでいる」文章だ。この山田風太郎の遊びに付き合わされるのが一番の楽しみだろう。

能力として面白かったのはやはり薬師寺天膳だろう。不死の能力という謂わばチート能力だが、これが実にいいスパイスになっており、早めに能力が分かったのにラスボス感が消えなかったのが素晴らしいと思った。仕留めきれてないことは読み手なら分かるわけだが、それで萎えるどころか「志村、後ろ!」のような誘い受けの妙にまで達している。ラスボスとトリックスターを同居させたことこそが一番凄いところかもしれない。また不死の能力を持つくせにどこか俗っぽく、隙あらば朧を犯そうとする下衆さが実に良かった。細菌だとハンター×ハンターのカミーラが似たような能力(ネコノナマエ)だったわけだが、不死系の能力は人間性が傲慢になるというのは結構リアルだと思う。

あと、吐く吐息が毒になる陽炎や変身能力の如月左衛門なども、元の能力に見合った活躍ぶりで胸がすく思いがした。普通の異能バトルだと噛ませ犬に扱われる類の能力だが、普通に考えて毒と变化が弱いはずがない。また戦闘能力でいえば最強である筑摩小四郎のカマイタチを起こす能力も、不意打ちでやられてしまうという塩梅もよく、普通にやれば勝てるわけだが、それは正々堂々とした勝負の場の話で、相手の能力が分からず、また多数対多数だとやはり勝負はわからない。見せかけの強さにばかりこだわっていると、その異常なまでのあっけなさに驚くことになるだろう。凝った能力よりも、やはり使い方とシチュエーションの妙味である。相手の死を利用した変身能力者が、相手が生きていたことで計画が破綻するという転がし方には舌を巻いた。あと、双方の頭領が能力バトルを根幹から揺るがす催眠能力と無効化能力だったのも個人的にはポイントが高い。能力バトルだと忌避されがちなこの二つの能力を使いつつ、しっかりと等価値でバランス良く扱う腕はまさに神の御業だろう。

初めて読んだ山田風太郎作品だったが、もっと早く読めばよかった。できれば学生の時に読みたかった気がするが、今読んでも全然遅くはない。次は『魔界転生』を読みたい

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年5月30日
読了日 : 2018年2月22日
本棚登録日 : 2019年5月30日

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