文・堺雅人

著者 :
  • 日本工業新聞社 (2009年8月28日発売)
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本棚登録 : 1149
感想 : 198
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この方の書いた文章を少しだけ、なんかのおりで目にしたことがあって、「いいな〜」と思っていた。ブックオフの本棚にこの本を「みっけ〜」ってなところ。

中々の筆がたつ俳優である。自分でも文章を書いてみたかったらしい。言葉を知ってる。言い回しもよく知っいて使いこなしてる。平仮名が多いので柔らかでスンナリと入っていける。そしてひとつの話にちゃんと起承転結があるのだ。計算されているというかよく考えて抜かれている。それともスラスラと自然に出てくるのかも知れない。本をよく読んでることがすぐに分かる人だ。それと、柔らかな感性がいい。

例えばこうだ。
 「20年近く経った今でも(1989年)の春のことをおもい出そうととするとすると、たかく舞い上がっていたものが落下する直前の、ふわりとした無重力感のような、そんなとりとめのない気持ちになってしまう。あるいは春と言うものは、多かれ少なかれ人をそうした気分にさせるものなのかもしれない。」

「新撰組」の若い俳優仲間たちとの飲み会で明日朝早いのにも拘らずどうせなら、このまま寝ないで呑み明かそうという。そんな彼らに抱いた感慨はこうだ。

「これも1種の『どうでもしなはれだ』。こうした手あいは決してむりには会おうとせず、遠巻きに眺めておいたほうがいい。何しろ相手はちょっと解脱しているのである」。

 このエッセーを読んでいると、あの口元がキリリと締まった生真面目な顔を思い浮かべる。こういう人が菅野美穂を嫁さんに選ぶんだな、と思った。彼女みたいな人には心を開けるんだなと合点した。分かるような気する。けっこう彼は人見知りなんだと思った。クソ真面目な感じがするけど、ナイーブで奥行きがあり、何故かどこか気になる存在だ。

 この方は言葉を知っていたり言い回しが上手なんだけど、それはつまるところ、自分の感情や気分を他者にうまく伝えるのが上手いということ。今の感情を伝える言葉のチョイスが上手ということだ。もちろんそれだけでは無い。元々傷つやすくナイーブな感性を持っているということ。人が素通りしてしまう事でも彼は見逃さない。心のヒダを持っているということだ。
 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月21日
読了日 : 2020年5月21日
本棚登録日 : 2020年5月21日

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