野の医者は笑う: 心の治療とは何か?

著者 :
  • 誠信書房 (2015年8月20日発売)
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感想 : 70
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ヤブ医者、野巫医者(祈祷師や陰陽師などシャーマニックな治療を行う人たちのこと)、…野の医者!

「私たちの日常は実は怪しい治療者に取り囲まれているのではないか。彼らを「野の医者」と呼んでみたらどうだろう。近代医学の外側で活動している治療者たちを「野の医者」と呼んで、彼らの謎の治療を見て回ったらどうか。」

そのような著者の思いつきから、野の医者研究は始まる。それは臨床心理学や精神医学、心を治すということについて改めて問いかけ揺るがす試みであった。
著者の相変わらずユーモラスな文章で楽しく、そして深い内容に興味が突き動かされて一気に読んだ。
自身も就活に苦しみながら、資金を得て、研究のためにヒーリングを受けてみたらヒーリング中毒になってみたり。
自身も講座を受けてマインドブロックバスターになってみたり。
著者はさまざまな野の医者に出会う。
治療を受けながら取材をして、彼ら彼女らのミラクルな日常に触れていく。
野の医者は女性の方が圧倒的に多く、また、そもそも沖縄には野の医者がとても多い。
そこには沖縄の貧困問題などの諸問題も関係しているようだ。
野の医者になる人はだいたい壮絶な人生を生き、野の医者に癒され、自身も他人を癒そうとする。そうすることで、癒され続けるのだ。
「私たちは今、軽薄でないと息苦しい時代に生きている。だから、軽薄なものが癒しになる。」

本当に読み進めれば読み進めるほど面白い。
臨床心理学と野の医者その他の違いについて、「そもそも何が治癒なのかが治療法によって違うのだ。」と著者は考えた。
そしてきっと一番重要なのは、
「治癒とはある生き方のことなのだ。心の治療は生き方を与える。そしてその生き方はひとつではない。」

「治療の種類によって、何が治癒であるかが違うのだ。だから、それらは互いに互いのことを非難して、嗤う。…互いが互いの治癒を偽物だと思ってしまうのだ。だけど、事実としてあるのは、世間には本当に色々な種類の心の治療があり、多かれ少なかれそれらによって心癒された人がいるということだ。」
「そして、何より大事なことは、現代日本社会では多様な生き方が許され、実際に共存していることだ。…私たちはそういう時代を生きている。だからこそ、私たちの社会は多様な心の治療を抱えて歩んでいる。つまり、様々な生き方があり、様々な健康があり、そのための様々な心の治療があるのだ。」

「心の治療とは、クライエントをそれぞれの治療法の価値観へと巻き込んでいく営みである。」

大事なことがたくさん書かれた本だった。
そのせいか感想が引用だらけになってしまった。心に留めておきたい。私たちは、心の在り方も治し方も、自由であっていいのだ。
「人は好きなように生き方をプリコラージュして、逞しく生きていくのだ。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 心理/精神/いろいろ
感想投稿日 : 2023年5月26日
読了日 : 2023年5月26日
本棚登録日 : 2023年5月26日

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