進化的アーキテクチャ ―絶え間ない変化を支える

  • オライリージャパン (2018年8月18日発売)
3.50
  • (6)
  • (9)
  • (21)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 258
感想 : 15
3

本書は「適応度関数」が引用される場合に参考書籍として提示されることが多い。その定義を確認しておこうと本書を手に取ったが、適応度関数の定義も終始曖昧である。

> 進化的アーキテクチャが適応度関数によって誘導されると我々が言うときには、個別のアーキテクチャ上の選択を個々の適応度関数とシステム全体の適応度関数によって評価して、変化の影響を判断していくことを意味する。...全てのテストが適応度関数というわけではないものの、そのテストがアーキテクチャ上の関心事の完全性を証明するのに役立つ場合には、我々はそれを適応度関数とみなす。(2.1 適応度関数とは p.36)

直接的に適応度関数の定義を定める記述はないが、上記の引用によると、テストの中である特定の役割を持つものを適応度関数と呼んでいるように思える。

閾値をもつテストの存在意義は、元から継続的に対象を監視して閾値を超えないように運用をするといったところにあるはずだし、そこに動的平衡などの概念を加えたことによって新しい視点が生じているようには思えない。

既存の概念とソフトウェア開発の概念を組み合わせた結果、2つの概念がうまく組み合わさっていないものは他にもある。

> 物理学で定義されているように、量子とは相互作用に関与する物理的実体の最小量だ。アーキテクチャ量子とは、高度な機能的凝集を持つ、独立してデプロイ可能なコンポーネントだ。...モノリシックアーキテクチャでは、量子はアプリケーション全体となる。(4.2 アーキテクチャ量子と粒度 p.67)

物理的実体とは何かという話はあるが、それを抜きにしても「量子」はただのインパクトのあるワードとして使われており、全く違う意味になっている。

本書は、システム全体に寄与して継続的に動作し、事業や市場の状況に応じて追うべき指標が変わったら柔軟に変化に追従するテストの運用についての本として読むべきで、それ以外のセンセーショナルな表現は捨てても差し支えないだろうと感じた。うまく定義されていない概念によって、むしろ他者とシステムについて共通認識を持つ際の妨げになる可能性もある。

とはいえ、単に継続的にシステムの指標となるテストを適応度関数と呼ぶことが便利だからこそ引用も多くされるのだろうし、本書の外に出て具体的なテストの事例を多く集めて、自分が関わるシステムの継続的な成長に役立てることはとても有益だろうと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月18日
読了日 : 2024年2月16日
本棚登録日 : 2024年2月14日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする