あきない世傳 金と銀(六) 本流篇 (ハルキ文庫 た 19-21 時代小説文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所 (2019年2月14日発売)
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最強の理解者であった智蔵の急逝
幸には悲しみに暮れるまもなく、五鈴屋の跡目の難題がのしかかる
とりあえず、3年の危険付きで女名前の中継ぎの許可を得る

この3年の間に、女名前禁止の制約がない江戸進出を果たそうと奉公人一丸となって努め、ついに浅草町田原に太物(木綿)商いをしていた店舗を居抜きで手に入れる

当時、歌舞伎やらで大人気だった「忠臣蔵」赤穂浪士の討ち入りの日、12月14日を開店日と決め、準備に奔走する幸

「商いを覚悟たるものにし、暖簾を後世に伝えていくためには豪気と細心が肝要。時代が何を欲しているのか、何処へ向かおうとしているのか。高い位置から全体を見回し、世の中の動きを察知する。何が好まれるのか、そうした大きな流れを掴むことがとても大事だ。
同時に地を這う蟻のように、身近なものをよく観察し、小さな機会も見逃さず、決して無駄にしない。優れた商人というのは、一見すれば相反するものを持ち合わせるものだ」
という治兵衛の教えを噛み締め、自分の足で江戸の町を隅々まで
見て回る

その中で江戸と大坂の違いを感じていくその描写が何とも興味深く面白い
今でもその違いは、漫才のネタになったりする
言葉を笑いに包んで渡す大坂、強い言葉もそのまま伝え、あとはけろりと忘れてしまう乾いた風のような江戸

古手商いの店が立ち並ぶ通りを歩いていく幸と一緒になって、江戸の町の賑わいを楽しんだ

現代にも継がれている呉服の展示の方法や、無料で帯の結び方教室を開催するなど工夫の数々、圧倒されるばかりだ

そして、満を持しての開店の日、私は泣かされた

暖簾に吸い寄せられるように入ってきた乳飲み子を背負った生活にくたびれ疲れ切った若い母親
「生まれて初めて、こんなに近くで絹織りを見ました。本当に綺麗で、華やかで・・・。いつか娘のためにあんな晴れ着を仕立ててやりたい。そんな夢は、夢だけは、見ていたいんです」
幸は、居住まいを正して、畳に両手をつき言う
「今日は私どもの開店の初日に何より嬉しいお言葉を頂戴しました。いずれ、きっとお迎えできる日を心待ちにして、私どもも精進させて頂きます」
残る奉公人も、声を揃えて.一礼して言う
「お待ち申しております」

富久や治兵衛から教えられた商いの基本「買うての幸い、売っての幸せ」が形になった瞬間だった
「売っての幸い、買うての幸せ」ではないのだ

いつもは、ええっーどうなるの?とやきもきした気持ちで、巻を終えるのだが、この巻は、静かな感動で温かい幸せな気持ちで読み終えることができた


読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年1月16日
読了日 : 2020年1月16日
本棚登録日 : 2020年1月13日

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