理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ! (単行本)

制作 : 川端裕人 
  • 中央公論新社 (2020年12月8日発売)
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本棚登録 : 373
感想 : 46
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COVID-19の感染拡大という歴史的なイベントの中、第一線で活躍された西浦先生の書かれた本です。専門家や官僚がどのような行動を取っていたのか、どういった葛藤を抱えながら先生が過ごされていたのかなど、報道では伝わってこなかった舞台裏の事情まで窺い知ることができます。まだCOVID-19との戦いに終わりが見えない最中ではありますが、本書は現在に至るまでの過程を新たな視点から捉える一助になると思いますし、今回の感染症対策を今後振り返る際にも重要な意味合いを持つ作品であると感じました。

西浦先生が専門とされている感染症の数理モデルが、日本においては比較的新しい分野であることもあり、感染症対策の歴史においても今回は一つの大きな転換点となったと思います。しかしながら、それに伴い専門家と政治との折衝の難しさ、というのも明るみに出ました。この科学と政治の対立やリスクコミュニケーションの問題については本書の中でも一つの大きなテーマになっており、多数の事例の紹介とともに詳細に語られています(risk informed decisionかpaternalismか、有志の会の果たした役割、「42万人死亡」の予想、8割接触減にまつわる経緯など)。今後状況がどう転じるかは分かりませんし、誰が正しいのか、何が正しいのかは現時点では知り得ないことも多いですが、本書を読んだ後の私には、西浦先生のされたことを闇雲に批判する気持ちにはなれませんでした。

現在も第3波の到来とともに、医療現場の逼迫が現実味を帯びており、臨床の現場に立つ医師と政治家との間での見解が食い違う場面も多く見受けられます。GoToトラベルを巡ってもエビデンスが不十分なまま突き進むなど、まだまだ問題は山積みであるように思います。このような社会状況における個人の努力には、無力感を感じてしまうこともしばしばですが、本書を通して専門家の先生方のご尽力されている姿を知ることは、大きな励みになるのではないでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年12月12日
読了日 : 2020年12月12日
本棚登録日 : 2020年12月11日

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