ローマ人の物語 (39) キリストの勝利(中) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2010年8月28日発売)
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この巻では、一般的に「背教者」というフレーズで名を知られているユリアヌスの皇帝としての歩みを辿っています。若く気概に燃えていたユリアヌスは、この頃のキリスト教優遇の政策を元に戻し、帝国民におけるあらゆる信仰の存在を公認しました。つまり、「異教徒」というような排斥の想いがあってはならないというものでした。ユリアヌスには前皇帝のコンスタンティウスが布いた司教たちを味方につけた恐怖政治への疑問がありました。また彼には30歳という年齢ながら再婚もせず子も持たない潔さがあり、キリスト教国化という時代の流れに逆らう意思を形作るものになったようです。
しかし、彼の試みは、キリスト教勢力と「異教徒」たちによる反撃やキリスト教内部の教理論争の騒乱を招き、ローマ帝国にとっ大事な「オリエント」の脅威からの防衛を危うくさせるものになります。
紀元363年3月、ユリアヌスは、誰一人心からこの戦役に頼れる人がない状態で懸案のペルシャ戦役に旅立ちます。そして、3か月後、作戦の失敗による撤退中に戦死します。皇帝になって僅か1年9ヶ月後のことでした。
次期の皇帝はユリアヌスの布いた政策をすべて廃棄し、短期間で代わったその次の皇帝は、反ユリアヌス派のゲルマン民族出身の者がなります。
筆者は、古代ではユリアヌスが唯一人、一神教のもたらす弊害に気づいた人ではないかと述べています。ユリアヌスが長く治世していれば…神を信じれば現世の利益をもたらすという世界観が支配する世界にはなっていないのでは…という筆者の指摘に鮮烈に生きたユリアヌスに想いを馳せました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 塩野七生
感想投稿日 : 2021年9月3日
読了日 : 2021年9月3日
本棚登録日 : 2021年9月3日

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