“嫌な気持ちにもなるが、泣けることもある”
そんな一冊。
「性格の悪い、不快な人たち」が登場するのだが、
それに対して、主人公は「実に性格の良い人たち」。
その対比が、なんとも涙ぐましい。
「貧乏」「いじめ」といった不幸は、涙をさそう。
これはいつの世も変わらない。
“嫌な気持ちにもなるが、泣けることもある”のは、
「貧乏」「いじめ」といった不幸を描いているから、といえる。
*
「石の十字架」の章に、とても印象的だったセリフがある。
“ 「言葉は知らないうちにナイフになる、ってことはわかってるのに、どの言葉がナイフになって、どの言葉がならないか、区別することはできなかったから。これは大人になった今でもできない」”
昨今のSNSにおいて、これは非常に突き刺さる言葉ではないだろうか。
結局、“わからない”のである。
どの言葉がよくて、どの言葉がいけないのか、
どの言葉が人を傷つけて、どの言葉なら人を傷つけないのか。
“わからない”。
これが結論なのではないか。
私もいまだにわからない。
*
最後に、ちょっと思ったこと。
文庫本の最後に、光原百合氏による解説がある。
その解説の中で、
“『望郷』の舞台となっている白綱島は、作者である湊かなえさんの故郷である因島をモデルにしている”
と書かれている。
これを読み、そのことを全く知らなかった私は、「え!そうなんだ!」と驚いた。
これを知っているのと、知らないのとでは、作品の読み方や受け取り方が変わってこないだろうか。
例えば、「どうりで島の情景描写がうまいんだな」とか、
「島に住む人、島から出た人、それぞれの思いが交錯するのだが、これがやけにリアルに感じられるのは、著者が島出身だからこそ…」とか、
「生まれ故郷を舞台にしているのだから、これは著者にとって思い入れのある作品なのではないか」とか。
“作者の故郷をモデルにしている”という情報があるかないかで、本書の印象がずいぶん変わる(「作品は『作品のみ』で評価されなければならない」という考えの人にとっては、このような読み方は不純に思われるかもしれないが)。
ところで。
電子書籍版だと、おそらく、この解説がないのではないか?
(というのも、電子書籍版になると、解説がカットされている小説が多いから。本作の電子書籍版を読んでいないので実際のところはわからないが)
以前から、紙の本と電子書籍の違いとして、【解説があるかないか】はとても大きな違いであると思っていたけど、本書でもそのことを痛感した。
- 感想投稿日 : 2024年2月2日
- 読了日 : 2024年2月1日
- 本棚登録日 : 2024年2月2日
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