2013年に日本で公開された映画『ハンナ・アーレント』は、戦後にアメリカでも名声を確立していたアーレントがアイヒマン裁判に挑むという時代設定であったが、これを読むとそれまでの彼女にどういう経歴があってあの裁判にたどり着いたかのかということが理解できるだろう。
映画を観てアーレントに興味を持った人が『全体主義の起源』や『人間の条件』などの原典を紐解く前に、取っ掛かりとして読むのにちょうどいい入門書。
この本ではアーレントの生い立ちから、ハイデガーやフッサール、ベンヤミンとの出会い、ドイツを追われた後のフランスの収容所生活、そこからアメリカへ亡命、無国籍なユダヤ人という賤民の認識(←ここ注目)、ハンナは母語のドイツ語以外はギリシャ語、ラテン語、フランス語ができてもなんと英語はできず(!)に渡米してしまうのだが、語学をいちから学び、アメリカ国籍を取得、大学教授の職を得て、アイヒマン裁判への傍聴に向かうという一連の流れが伝記のように語られる。
悪をやみくもに糾弾するという正義は、またその行為も偽善と差別を生むことに気がつく彼女の冷静な判断。アメリカに亡命した際のユダヤ人同士における批判、アイヒマン裁判、リトルロック高校事件、アーレントには一貫した視点があることに気付かされる。これを機に、彼女の一覧の著作に興味を持つ足がかりとなるであろう一冊。
終章、彼女のフッサールへの追悼の言葉にも心動かされる。友人を大切にしたアーレントを取り巻く人々に関する情報も多く、文章も読みやすい良本。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2014年7月23日
- 読了日 : 2014年7月23日
- 本棚登録日 : 2014年7月22日
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コメント 2件
猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2014/07/28
のん太さんのコメント
2014/08/06