原作:ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』
・登場人物…アリスのみが人間で、他のキャラクターはすべて人形が演じる。アリスやキャラクターは無表情・無機質でほとんど喋らず、アリスの「口」が語り手として解説する。
・ストーリー…原作に忠実(ただし表現が独創的)。ドードー鳥・チェシャ猫・海ガメもどきなどが登場する件は採用されていない。
・アニメーション…人形のシーンはコマ撮りのストップモーション・アニメーションで、CGは使用されていない。
・人形…眼球と骨が強調された造形。可愛いというより不気味なのだが、愛玩してボロボロになった人形に対するような妙な愛着は感じる。時計を胸の穴の中に入れて、いちいち木屑まみれにするウサギがいじらしい。
「パンズ・ラビリンス」のようなダーク・ファンタジーを想像していたが、一言で言うなら「ダーク」や「グロテスク」よりも「シュール」と評するのが近い世界観だった(ウサギやカエルの舌だけは生々しくグロテスクだが)。アリスの部屋が広大な荒地に続いていたり、不思議の国の風景がすべて書割だったり、不思議の国自体が家の中におもちゃのように設置されていて奇妙な感覚に陥るが、そこがアリスの夢の世界であればこそ、彼女の既知の材料だけで自由に組み立てられた結果なのかもしれない。
ストーリーに緩急がなく、ナンセンスで無機質な世界は、普段見る夢に似ていて嫌いではない。しかし、原作の大ファンで、不思議の国の個性的な住人とアリスが繰り広げる会話が好きな私には少し寂しかった。「くつ下」の芋虫が斬新で面白いが、もっと減らず口を叩いてアリスを当惑させてくれる方が好みだ。
- 感想投稿日 : 2012年5月12日
- 読了日 : 2012年5月12日
- 本棚登録日 : 2012年5月7日
みんなの感想をみる