かかし

  • 徳間書店 (2003年1月31日発売)
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感想 : 52
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‘81年、カーネギー賞を受賞。イギリスの児童文学に与えられる賞だそうだ。

他の方も書かれていたが、これが児童文学なのかと首をひねる部分もある。対象年齢は中学生からと記載されているが、日本の中学生はこれを理解するには、精神的に幼過ぎるのではないだろうか。
いや、でもこれだけ色々な情報が容易く入ってくる今の時代の中学生なら、この本の真の意味を読み取ることができるのかな。

寮生活を送っている13歳のサイモンは、学校の長期の休みを、再婚した母親が暮らす新しい家で過ごす。事故で亡くなった父親を忘れられないサイモンは、再婚相手で著名な画家のジョーに嫌悪感を抱き、そんな男と結婚した母親の裏切りに嘆き、ジョーに懐く妹を卑下する。彼だけが新しい環境を受け入れられず、孤立した状態になってしまう。
彼らの新しい家の近くには広大なカブ畑があり、その向こうには古い水車小屋が見える。なぜかその小屋に呼ばれているように感じたサイモンは、ある日ひとりでその小屋を訪れるが、そこで彼を待っていたのは邪悪な「何か」だった。

この小説のタイトルになっている『かかし』とは、小屋の前に立っている三体のかかしのことで、邪悪なものが宿っているとサイモンは思っている。かかしたちは徐々に彼に近づいてくるのだが、それがイメージではなく、現実的な距離として縮まってくる様が怖い。
実はそれは怨霊や祟りなどではなく、サイモンの中にある思春期特有の鬱積した感情であり、それを乗り越えることで大人になっていく過程を描いたものであるのだろうが、彼があまりにも繊細で脆く傷つきやすいにも関わらず、軍人であった強い父親の思い出に異常なほど固執することで強くあろうとするそのギャップが生み出した出来事だったのだろうとわたしは理解した。

家族と仲良くなりたいという願いと、それを拒絶するべきだという相反する思いが、サイモンの心の中でせめぎ合う。本当は前者を望んでいるはずなのに、素直になれないがために真逆なことをしてしまう。
後半に遊びに来た友だちのクリスは、サイモンを良い方向に導こうとする。どこかでそれを望みながらも拒否してしまい、水車小屋自身がクリスを遠ざけるという描写が、サイモンの激しい葛藤と、自分のものでありながら思い通りにならない彼の心をうまく表していたと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年10月3日
読了日 : 2020年10月3日
本棚登録日 : 2020年4月8日

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