揺らぐ世界 :〈中学生からの大学講義〉4 (ちくまプリマ―新書)

  • 筑摩書房 (2015年4月8日発売)
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感想 : 25
4

そうそうたる大人による執筆。
コンセプトは、中学生向けに大学並みに深いことを伝える、というものだろう。
第4巻は、「世界の変化」がテーマ。昨今の環境変化は、凄まじいものがある。これをどうとらえるか。自分の立ち位置を決めるために、世界をどうとらえるかが重要。

揺らぐ世界の例として、
ヒロシマ、ナガサキ、アウシュビッツ、パレスチナ、オウム、フィリピンからエジプトまでに加え、民主化、3.11、フクシマ
が挙げられる。
最後はグローバルに考えるという点で終わっている。

ボーダーレスなドライバーによるグローバル化で、ボーダーレスというよりボーダーフルになっているというのが東西冷戦以後の状況。宗教ごとの観点や様々な「リージョナルなもの」が、グローバルの視点により相対化される。一見、宗教に始まる数多の「線引き」による対立が世界を揺るがせているように見えるが、実は、技術という「ボーダーレスなドライバー」の影響により、対立の「インパクト」が幾何級数的に拡大している。人間が生み出した「概念」がリアルを破壊しているともいえる。

客観的にみれば、自分で自分の首をしめている。愚かしいとしか言いようがない。

本書にある「揺らぎ」とは、そういうことだろう。ここをどう理解するかが本書のテーマか。

立花隆 ヒロシマ・ナガサキ・アウシュビッツ・大震災
・第一の敗戦:太平洋戦争、第二の敗戦:バブル崩壊後、第三の敗戦:東日本大震災と津波の影響
・戦争の記憶
・100万人
・メルトダウン
・PTG

岡真理 ”ナクバ”から60念ー人権の彼岸に生きるパレスチナ人たち
・アラブ人=アラビア語が母語
ーイスラームの信仰
ーキリスト教徒のアラブ人
ーアラブ人のユダヤ教徒
・パレスチナ=アラブ世界=キリスト教発祥の地
・パレスチナ問題
ーユダヤ人とアラブ人が数千年にわたって民族対立をしている、は間違い
ー聖地エルサレムをめぐってユダヤ対イスラームが宿命の宗教対立をしている、は間違い

ーエルサレムを含むパレスチナがイスラーム世界になったのは七世紀。以降1400年近い歴史でエルサレムは3つの信仰の聖地
ーユダヤ人の国を作ろうとする運動=シオニズム運動=19世紀→ユダヤ対アラブ

・キリスト教による差別
・人種という概念の発明:ユダヤ教徒=セム人種=アジアに起源
・「ニュルンベルク法」
・ドレフュス事件→シオニズム運動=ベン・グリオン
・1947年11月29日:国連総会でパレスチナ分割案が採択=ユダヤ人がパレスチナ全土の52%へ
・→民族浄化
・1948年:イスラエルの独立宣言
・70-100万人が難民に=ナクバ
・1948年12月に国連が難民となったパレスチナ人の即時帰還の権利を確認 vs イスラエルは認めず


橋爪大三郎 世界がわかる宗教社会・・・最低限これだけは知っておこう
・一神教=ユダヤ教、キリスト教、イスラム教
・イスラム教のアッラー(神)=ユダヤ教のヤハウェ(永遠の存在)=キリスト教のゴッド(神)≠名前=神
・なお、名前は、いくつかあるものを区別するためのもの
・3つは信じ方が異なる。
・預言者の働き=神の言葉を聞く人
・神の言葉をまとめたもの=聖典。イスラムの場合=コーラン(ムハンマド書)、キリスト教の場合=聖書(新約+旧約)、ユダヤ教の場合=旧約聖書というかタナハ(トーラー=モーセ五書、ネビイーム=預言書、ケトヴィーム=諸書)
・新約聖書=福音書4つ、パウロの書簡、ヨハネ黙示録。人間が書いたものだが、聖霊がいて神の言葉になっている
・ムハンマドは「最後の」預言者。モーセ、サムエル、イザヤ、エレミヤ、エゼキエル、イエスなどの預言者がいた。なので、イスラムは、キリスト教、ユダヤ教を「啓典の民」として信仰の自由を認める
・ユダヤ教とキリスト教は、コーランを聖書と認めない、ユダヤ教は新約聖書を聖書と認めない
・安息日はいつか:一週間は日曜日から始まる。ユダヤ教は土曜日、キリスト教は日曜日、イスラム教は金曜日
・人間が死んだらどうなるか:ユダヤ教は土に環る。キリスト教とイスラム教は復活(審判の日)
・宗教改革:キリスト教の原則をもう一度徹底すること:マルチ・ルター(働く=隣人愛の実践、浪費しないで投資、禁欲→資本主義)、ジャン・カルヴァン(ピューリタン→アメリカ入植)
・利子をとってよいか:ユダヤ教とイスラム教は(同胞に対してはNG,キリスト教はとってはいけないという決まりはない
・仏教と儒教:神々は重要ではない。
・仏教では、仏>神(神々=「仏様の応援団」)
・儒教では、人間主導での、よい政治が目的→「怪力乱神を語らず」


森達也 世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい
・オウム以前と以後:悪と善の二分法。厳罰化
・死刑の廃止と存置
・人が罪を犯す理由:愛情不足、教育不足、貧困
・罪と罰の概念の違い:ヨーロッパ対アメリカ対日本。日本お応報刑論

藤原帰一 民家とピープルパワー フィリピンからエジプトまで
・民主化するとは、
・フィリピン:ベニグノ・アキノ対マルコス。コラソン・アキノ対マルコス
・ピープルパワー革命対近代革命
・ピープルパワー革命=政府分裂+人が集まる+争点が権力者の退陣
・近代の革命=独裁的な政権獲得過程。フランス革命とジャコバン派独裁、ロシア革命とボルシェビキ独裁、中国革命、イラン革命


川田順造 人類学者として、三・一一以後の世界を考えるー異文化から学ぶもの
・グローバル化の3つ=15世紀にはじまる大航海時代+19世紀後半の産業革命がもたらした非西洋社会の二重の搾取体系+ソ連崩壊以後の東西対立解消
・国民国家は諸悪の根源
・人類学者の使命

伊豫谷登士翁 グローバルに考えるということ
・2つの極端=世界戦争+大量虐殺
・膨大なエネルギーを消費する豊かさ
・新たな課題=環境問題+(恐怖にもとづく)帰属意識の崩壊
・男女間や人種間の格差の見落とし
・先進国と発展途上国の格差の見落とし
・安い物を手に入れたい vs 高い賃金を得たい
・格差が生み出した不安をどう表現するのか=自分の居場所が見えない
・ボーダーに身をおく。ボーダー=家族、共同体、国家、ボーダー=学問領域

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 生き方論
感想投稿日 : 2021年10月3日
読了日 : 2022年3月7日
本棚登録日 : 2021年9月22日

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