夏美のホタル (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2014年8月23日発売)
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本棚登録 : 4068
感想 : 308
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 本書は「ザ・日本の夏!」 そう、井上陽水の『少年時代』の世界です!(これ、前にも書いたな)
 山里、蝉の声、川遊び、スイカ、花火、そしてホタル‥。日本の原風景が郷愁を誘い、心に温かく優しい風が吹きます。

 大学生で〝写真家の卵〟慎吾と幼稚園教諭・夏美が主人公です。二人がたまたま立ち寄った山里のひなびた雑貨屋「たけ屋」。ここでひっそりと暮らす老親子との交流を描いた物語です。

 自然、光、音、建物の佇まいなどの情景が浮かび、登場人物の温かな心情、年長者の含蓄のある言葉、ほっこり感と癒され感が胸に迫ります。もう、森沢ワールド全開です。

 著者の実体験を元にしたフィクションとのことですが、情景と人物描写が実に秀逸だと思います。
 夏の描写にワクワクしながらも季節は移ろい、(蝉の声ひとつ取ってもアブラゼミからヒグラシへ)日暮れが早くなっていく、あのもの悲しい感じ‥。
 この寂しい感覚に、人との別れを重ねる展開の上手さには恐れ入ります。

 親子関係が重要なテーマですが、肩肘張らずに軽やかに読めます。また、人として大切にしたいことを、さりげなく教えてくれ、読後に温かく優しい気持ちになれる一冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月28日
読了日 : 2023年7月28日
本棚登録日 : 2023年7月28日

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