構造形式ごとにその歴史背景・特徴を各論として紹介しながら、
筆者が考える、ものづくりに向き合う人間が持つべきデザイナ・エンジニア
としての感性を伝える本になっている。
タイトルそのままに、
構造を技術として実践し、その延長線上にデザインの役割を実現する。
デザインの役割とは、
いまという時代のエンジニアリングを形にし、時間と場所を表現(翻訳)する。
そして、それらのモノを社会・人へとつなぐことだと著者は述べている。
とても興味深かったのが、木造の話。
木造は、小さな矛盾を受け入れ、曖昧さを許容する「多矛盾系」の構造形式だということ。
反対の「無矛盾系」な構造とは。
「無矛盾系」を目指していくと、1点でも矛盾があるとそこに力が集中して、
破壊につながるという本質的な弱点を抱えてしまう。
つまり、無矛盾を目指せば目指すほど、徹底的に、それも隅から隅まで
無矛盾でなければならなくなってくるものだということ。
「多矛盾系」の木造は、
許容した矛盾・曖昧さがリダンダンシー(冗長性)を高めることにつながっており、
部分破壊が全体破壊に至らないという構造になっているという。
多矛盾系を支えているのは、工学知(理論)はもちろん、
経験知・体験知ともいうべき、ものづくりの人間が現場から吸収し、
積み上げてきた情報たち。
この2つの系の関係は、
1つの価値観で全体をコントロールしようとする(部分の矛盾を許さない)
グローバリゼーションの限界とこの思考方法の持つ排他性に気が付き始め、
小さな矛盾(多様性)を許容しながら、全体が成立するローカリゼーションという
価値観に振り返り始めた今の世の中を表しているかのよう。
ほかにも、日本の街並みが木造の外観を失ってしまったワケとか、現場の空洞化の話とか、
参考になる話が満載の本でした。
- 感想投稿日 : 2021年4月17日
- 読了日 : 2012年10月24日
- 本棚登録日 : 2021年4月17日
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