【短評】
第163回直木賞受賞作。
看板に偽り無し。素晴らしい作品だった。犬を題材にした小説と言えば、古川日出男の傑作「ベルカ、吠えないのか」が思い出されるが、同作と個人的犬小説No1を争う程の名著であると思う。
[○○と犬]と題された七つのお話からなる連作短編集。個人的には、不思議な犬”多聞”に纏わる一つの物語と評価したので、レビューの形式は長編のものを採用する。
犬が人に齎すものは何か、説明するのは難しいと思う。本作の登場人物たちは、その人生の岐路に”多聞”と出会い、絆を結び、少しだけ人生に光が差す。人生を逆転する都合の良い奇跡が起きる訳ではない。ちょっと救われるのだ。その”ちょっと”が実に味わい深く、ほんのりと温かい。
読んでいる間、幸せになれる類の一冊である。
【気に入った点】
●[少年と犬]本作の集大成となる一冊。この頃にはすっかり”多聞”に愛着が湧いていたので、しっかりと心を動かされてしまった。全編通じて語られていた、とある「謎」が解消するのだが、もうね、これが凄い良いお話。こんな奇跡ならあっても良いさ
●[老人と犬]死に瀕する猟師と犬という組合せからして大好物。「死」をテーマにした作品だが、まさかああいう結末とは思わなかった。だが、それが良い。そこに犬が寄り添うというだけで救われる何かがあったのだ
【気になった点】
●終盤まで人が死に過ぎるのがやや気になっていたが、[老人と犬]においてきちんとフォローされていたので、個人的には得心がいった。”多聞”が嗅ぎ取るものは何か、というお話
●その他は特になし。自然と物語に没入出来た。
発表順から言うと[少年と犬]が初出とのこと。その他六編はその後に書き加えられたとのこと。発表順に読んでみて自分が何を思うかにも興味があるが、やはり収録順がベストだと感じる。盤外的な感想だが、編集の妙だと思った。
- 感想投稿日 : 2023年5月9日
- 読了日 : 2023年5月9日
- 本棚登録日 : 2023年5月9日
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