暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待

  • 紀伊國屋書店 (2015年2月26日発売)
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感想 : 21
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堂々600ページ超の大著。でも、どっちかっていえば一般向け。

なぜ、人は罪を犯すのか、てことを、いろんな角度からデータを挙げて論じてる。

例えば本能。遺伝子の異常。脳や自律神経の不全、器質的な障害。栄養不足。虐待や育児放棄など幼少時の不遇……生物的な原因が強調されてるのは、そもそもが犯罪学は1990年代までは社会的要因のみに求めるのが主力で生物学的要因を論うのはタブーだった、てことの反動かな。
犯罪は道徳ではなく、公衆衛生の問題だ、てのは明快だ。でも、犯罪は病気で、予防と治療が大事、て主張には反撥覚える人も多いだろな……

著者は一貫して、生物的要因と社会的要因双方が絡み合っている、て述べる。片方だけならぜんぜん問題ないのに、二つが合わさるとその子供が将来、暴力的な犯罪を起す確率は何倍にも跳ね上がる、と。
ナイーブな問題であるのは確か。犯罪学そのものが政治問題になる。
終盤で著者が提示する未来の社会の姿は、ハクスリーだのオーウェルだのPKDだの思わせて、グロテスクでもあるが、現実、世界各国はその方向に進んでる、と。
著者本人も、理屈ではそれが“素晴らしい新世界”だと考えてはいても、どこかで納得してない様子。

各章で、ヘンリー・ルーカスはじめ、有名無名な犯罪者の実例を挙げてるのもミーハー的にウレシイ。しかし、ルーカスの生涯て悲惨すぐる……長じて彼がアメリカ史上最悪のシリアルキラーと呼ばれるようになるのもさもありなん。
サスペンスでお馴染みの“サイコパス”についてこの本読むまで勘違いしてた。グロスマンのいうような本能的な殺人の禁忌のない人間、ではなくて、もっと複雑な良心の欠如であって、つまるところは躾の問題ってことじゃんかよー。そもそも、今は、ソシオパス(社会病質者)ていうよな。良心の欠如は、精神異常(=サイコ)でなくて、社会性の問題、てことだし。
で、シリアルキラーの中にも、人を殺す瞬間は気分が悪い、て人もいるのは興味深い。そのへん、人殺しはまた別口の本能的な禁忌っぽい。
やっぱり、妊婦や乳幼児は大事に扱わないといかんよね。公衆衛生のために。
もちろん煙草や酒や栄養不足は厳禁。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: お茶の間科学
感想投稿日 : 2016年5月4日
読了日 : 2016年4月29日
本棚登録日 : 2016年5月4日

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