初めは早く自立して大人になることが目標だった主人公の夕士くんがアパートで出会った幽霊、妖怪、その他のもの達や学校、アルバイト、そして親友の長谷くん、様々な人との出会い、交流を通して、世界の広さを知り、自分の人生を切り開いてゆく姿が凛々しい作品でした。最終巻にして人生の方向転換を余儀なく迫られる夕士くんでしたが、悩んで、考えて、ときには相談して、熟慮の末に誰かがヒントをくれたりして、そうやって人生は思いもよらぬ展開をむかえたりするのだな、と思いました。周囲のペースに流されることなく、自分のペースで人生を楽しみたい、強くそう思いました。
シリーズ全体の印象としては教科書のような作品だと感じました。なぜなら、主人公の夕士くんを中心にそれぞれのキャラクターの思考過程がしっかり描かれ、世の中の捉え方が明確に提示されているからです。よって、なんだか説教臭いな、と感じる読者もいるかもしれません。しかし、語り口が若者言葉で内面のセルフツッコミなど、ある程度重みのあるテーマも軽く読める形になっています。また、現代の子どもや大人に対してかなり鋭い指摘も多々あります。ただし、昔の子ども、大人を賛美しているわけではありません。昔と比べ年代問わず、不安定な人間が増えている一方で古から変わらない精神力を持つ妖怪たちの相反する構図が現代の読者に強く訴えかけるメッセージがあると思います。最後に、この作品には妖怪や幽霊、魔導書といったオカルト、心霊的要素が多々登場しますが、あくまでも話の中心は進路、友情、学校生活、といったYA世代の子どもたちの等身大の姿です。彼らの悩みに寄り添う数少ない現代社会の大人、そして妖怪アパートの住人。この作品を通して少しでも子どもたちが活き活きと、そして子どもを見守る大人の姿勢がより良い方向へと進歩するのではないか、と期待せずにはいられません。
- 感想投稿日 : 2022年3月1日
- 読了日 : 2022年2月28日
- 本棚登録日 : 2022年2月28日
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