見えない貌 (光文社文庫 な 1-31)

著者 :
  • 光文社 (2009年8月6日発売)
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本棚登録 : 71
感想 : 11

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最愛の娘が行方不明の末、惨殺死体で発見された!母親の朔子は、携帯メールから娘の孤独を知り、愕然とする。そこで彼女は、娘の携帯に残された「メル友に会いに行く」という言葉から、ある男に辿り着くが…。思いもかけぬ、第二の事件が起きる。わが子を思う究極の愛とは!?―著者が綿密な取材と法廷小説の手法を駆使して、読者を驚愕の真相へと導く推理巨編。
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初出は2004年である。スマホなどまだなく、二つ折りの携帯の小さな画面で、パケ代を気にしながら、初めて体験するネットの世界を興味津々で泳ぎ回っているころである。日常に小さな鬱屈を抱いている人々が、小さな画面の中で見知らぬ誰かと出会い、一時の夢を見ようとしたばかりに、いざ現実に引き戻されると、痛ましい事件に発展してしまう。あの時代のネットのわくわく感と危うさが絶妙に描かれていると思う。そして、二組の親子が大きなうねりに巻き込まれている。母と娘、父と息子。わが子を守ろうとする親の思いの執着があまりに強すぎたために、第一の事件とは別の次元に進んでいく。前段は、殺された晴菜の母・朔子の目線で、後段は、加害者弁護士のタマミの視点で物語を見ることになる。どちらにしろ、救いはどこにもない。目の前に示されたものから推測されることと、事実との乖離。一度思い込まされたものを覆すことの難しさ。さまざまなことを考えさせられる一冊でもあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: な行の作家
感想投稿日 : 2020年5月6日
読了日 : 2020年5月6日
本棚登録日 : 2020年5月6日

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