二重国籍と日本 (ちくま新書)

  • 筑摩書房 (2019年10月8日発売)
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 「自国民であることをどのように定義するか」はすぐれてドメスティックな問題であり各国の裁量に属する事柄(国内管轄の原則)だが、これが二重国籍を扱う場合となると途端に簡単にはいかなくなる。即座に各国の裁量の衝突が起こるのだがそれが個人そのものを地平として生じるため、個人の人生やアイデンティに影響する生々しい事態に直結するのだ。個人が国家のフロントに立たされているようなイメージ。特に台湾との二重国籍のように日本が承認していない国家が相手の場合は、当該国の法律効果を国内でどのように扱うか、極めて微妙な問題となる。

 本書の主張は、今日では二重国籍に伴って生ずる問題、例えば忠誠義務違反や重婚などの問題は生じ難く、その発生をむしろ容認すべし、とするもの。しかし、国内管轄の原則が衝突する以上多重国籍の防止は事実上困難だから、とするのはわかるが、「重国籍容認が世界のトレンドだから日本もそうすべし」というのは少々説得力に欠ける気がする。自国民の定義は当該国に積極的なメリットが生ずる形でなされる必要があるだろう(そうでなければ国内管轄の原則を満たしているとはいえない。もちろん他国民の権利を不当に害してはまずいのだが)。本書ではたとえば日本の労働需給の逼迫が挙げられているが、もっと多くの二重国籍を容認する積極的な理由が要請されて然るべきと思う。

 我々が重国籍者に対して抱く「羨ましい」「ズルい」という心情。蓮舫問題を見ても、どうやら日本人には国籍問題に関しては理屈よりも心情が先に立ってしまう国民性があるようだ。本書はこれを狭量さの問題として矮小化しているようだが、しかしそれではいつまでも重国籍問題は解決しまい。なぜ我々にそのような心象が生ずるのかを掘り下げて考察し、それを世界各国の国籍観と見比べてみる必要があるのでは。いずれにせよ、国籍問題は制度面だけの整備で解消するような根の浅いものではないのではと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年10月10日
読了日 : 2020年10月4日
本棚登録日 : 2020年10月4日

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