社会学入門: 人間と社会の未来 (岩波新書 新赤版 1009)

著者 :
  • 岩波書店 (2006年4月20日発売)
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感想 : 105
3

哲学って何?という話をしていた時に紹介していただのが見田宗介さんでした。
西洋でなく日本から生まれた思想とは如何なるものかを知りたくて手始めに読んだのがこの『社会学入門』です。


★★★

序章
人間は、重層的な関係の中に本質を持つ。
従って人間の学である社会学は、領域を横断する学問である。

コラム
社会のは主体的/客観的、共同体的/社会態的という2つの軸の組み合わせで存立する。
社会という言葉は内部性/外部性の転変を見せてきた。


社会学は、比較から他者を知り、「当然」という既成概念を崩して人間の可能性への想像力を獲得する方法論である。


世界のあり方、存在するものに対する感覚は時代により異なる。
近代は、分断されたものが再び一つ上の概念で結合すると同時に、個の孤立化を進ませた。


日本の高度経済成長期は3つの段階に分けられる。
1945~60年は理想を現実にしようとした時代であり、60年の日米安保で理想の現実化に失敗したことで終わった。
1960~73年頃は、近代合理主義化とそれによる人間関係の変化が生じる。始めは大衆幸福と経済繁栄が好循環を成すが、しだいに近代合理主義への反抗が起きる。
1973~年は高度経済成長が終演し、熱さの喪失と同時に外的/内的共に生のリアリティが解体した時代である。


90年代前後の短歌から、共同体からの解放や人間関係の不確かさ、異質の他者との自由な結合という日本人の感覚の変化が読み取れる。

コラム
人間の生は物質的拠り所と精神的拠り所を必要とする。
これらは市場経済と核家族、情報化で満たされ、愛情は濃縮された後に散開する。


21世紀は、個人レベルではなく共同体同士の固定化された認識による関係の絶対性に支配されていた。
関係の絶対性は永遠に繰り返してしまうため、今後乗り越える必要がある。


人口はS字曲線を描き、現代は人口爆発から定常への過渡期である。
現代は生命性→人間性(道具・言語)→文明性(農耕・文字)→近代性(工業・マスメディア)→現代性(消費・情報化)の獲得という革命の重層的な構造を持つ。今後は共存を基軸とする革命が起こると予想される。


社会構想には、
生きる意味と喜びの源泉としての他者との関係(交響体)‐間‐生きることの相互の制約と困難の源泉としての他者との関係(連合体)
という形式を持つ。
実際には、交響体は交響性/ルール性のバランスで定義され、その規模や一個人の多元的帰属も自由である。
自由な社会とは、万人がルールを作り相互に共存する社会である。

★★★


全体としては、思想というより社会学、コミュニティ論のような印象を受けました。

私は90年代始めに生まれたので、第三章の時代の空気の変化にはリアリティがありません。
また、第四章で述べられる90年代の共同体の解体・個の不確実性の自覚は、いわばそれを前提として生きてきているので価値判断が出来ません。

そのような状況のもと最も印象的だったのは、終盤の社会構造及び今後の見通しに関してです。

おそらく今は第五章のS字曲線の過渡期も後半、定常期に片足を踏み込んでいるのでしょうか。
次は「共存」の時代であり(共存というキーワードは最近よく聞きます)、それが消費化及び情報化と関わっているのは納得できます。


社会構造についても非常に納得がいきます。
1年ほど前に読んだ『コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来』(ちくま新書・広井 良典著) では、一定の目的のもと集った人で形成されるコミュニティ/所属する組織により規定されるコミュニティという二元論が使われていました。
これと比べると、見田さんの提示する重層的かつ有機的な構造はよりリアリティがあります。


強いて言うならば、この本が発行された2006年と言うといわゆるSNSがまだ普及していない時代かと思います。
この数年で一気に「共存」を支える情報化において大きな変化がありました。
それがどのように今後の社会形成に影響しうるのか、また、この本で提示された社会構想モデルに変化を及ぼしているのかを考えてみたいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: philosophy
感想投稿日 : 2011年4月25日
読了日 : 2011年4月25日
本棚登録日 : 2011年4月25日

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