ウッツ男爵: ある蒐集家の物語 (白水Uブックス 193 海外小説永遠の本棚)

  • 白水社 (2014年9月4日発売)
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感想 : 13
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早逝した作家、
ブルース“どうして僕はこんなところに”チャトウィンの
幻想的な小説を、ドイツ文学者・池内紀先生が翻訳。

作者の分身のような語り手「私」が出会った、
マイセン磁器の蒐集家ウッツ男爵の
静かでありながら鬼気迫る情熱について。
作家になる前、サザビーズで働いていたという作者は多分、
その手の人種を数多目撃していたはずで、
ウッツ男爵はそうした人々のイメージの
キメラのようなキャラクターなのかもしれない。

冷戦下の社会主義体制側が舞台になっているため、
超合理的かつ殺伐とした、
コレクション=個人の私有財産=「悪」と見なされる世の中で
いかに宝物を保持するかに腐心する様は、
シリアスを通り越して滑稽なほどだが、笑ってはいけない。
ウッツは(所有の)自由を守るため、
勇気を持って、あの手この手で戦った。

しかし――身近な例を見回してわかるように――
強力な蒐集癖を持つ男性はパートナーを求めないか、
あるいは自身の趣味に極めて寛容な人と生活を共にするだろう、
そして「集める系」オタク野郎は、
そんな器の大きい相手の掌で遊ばされているに違いないのだ……。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  英米語文学
感想投稿日 : 2017年10月29日
読了日 : 2017年10月29日
本棚登録日 : 2017年9月17日

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