イギリスの詩人・小説家、『チャタレー夫人の恋人』が
あまりにも有名なデイヴィッド・ハーバート・ロレンスの作品中、
幻想的な趣の掌短編7編(5編+未完2編)と
詩2編を集めたオリジナル短編集。
皮肉とユーモアとセンチメンタリズムを感じ、
孤独に憧れつつ一人ではいられなかった人の面影が偲ばれた。
以下、収録中、完結している小説5編について。
■喜びの幽霊
語り手は美術学校で出会った女性と友情を育み、
後年、結婚した彼女に招かれ、
彼女が夫や姑と共に暮らす屋敷を訪れたが、
そこには幽霊が出るという話で……。
一同はこの世に未練を残して死んだらしい女性の気配を
恐れていたが、
次第に考えをポジティブな方向にに切り替えていく。
もっとも、それには古い世代に
口出しを控えてもらう必要があったのだが。
■メルクール山上の神メルクリウス
ドイツ南西部メルクール山に押し寄せた観光客に
ギリシャ神話の神メルクリウスが鉄槌を下す。
「ボーッと生きてんじゃねえよ!」(By チコちゃん)
といったところか。
■微笑み
マシューは妻が静養するイタリアの修道院へ。
シリアスな状況下で非情に込み上げてくる
笑いの正体は、誰にとっても謎である。
■島を愛した男
「島」で生まれ育ったカスカートは
環境が性に合わないと思い、自分の理想郷を作ろうと考えて、
35歳を目前に別の小さな島の所有者となった。
しかし、一人きりでは生活を維持できず、
あの手この手を繰り出すものの、
事態は一時的に改善されただけでより悪化していき……。
一人でいたいが一人では何一つ
満足に成し遂げられず、他人の手を借りては失望する男。
孤独が狂気を醸成する恐怖にリアリティを感じる。
■もの
第一次世界大戦前、アメリカ、ニューイングランド出身の
エラズムス&ヴァレリー・メルヴィル夫妻は、自由と共に
古い歴史ある趣や物事の存在自体に備わる美にこだわって、
ヨーロッパで暮らし始めたが、
何かに躓く度に転居を繰り返し、仕切り直そうとする。
理想に拘泥するあまり蓄えを擦り減らし、
気がつけば子供も生まれ、最早二人とも若くはなく……
という、物質と消費と金と精神論を巡る皮肉な物語。
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- 感想投稿日 : 2018年11月29日
- 読了日 : 2018年11月28日
- 本棚登録日 : 2018年10月23日
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