グッドバイ

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2019年11月7日発売)
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本棚登録 : 526
感想 : 57
4

実に気持ちの良い物語だった。
女性商人の話ということで、朝ドラ『あさが来た』のような感じかと思ったが、もちろんドラマのあさとはキャラクターは違うし波乱万丈。

読み終えて調べてみたら「長崎三大女傑」の一人らしい。
確かに倒幕を企てたり新しい世の中の仕組みを考えている幕末当時としては危険な人々を経済的に支えていたり、女だてらに外国人と商売をしようと突っ走ったりと、番頭の弥右衛門がハラハラするのも分かるくらいの向こう見ずさは驚かされるが、この作品で描かれるお慶は豪傑という感じではない。

父と後妻一家が逃げ出した後、たった十六歳で大浦屋を立て直すために女主人となって、元は油商だったものを畑違いの茶葉商いに舵を切り、言葉もままならないのに外国人相手に堂々商売を挑む。

彼女はいつも必死で懸命で、でもとても楽しそうだった。新しいこと難しいことにチャレンジすることが楽しくて堪らないという姿勢が満ちていた。
祖父の『勘を磨け』という言葉を頼りに時代の大変換期を進んでいくお慶は気持ちが良い。

彼女の商売相手、ヲルト商会のヲルトや彼と繋ぐきっかけとなるテキストルもお慶と対等に向き合う人だった。日本を食い物にしようとする外国人とは違っていた。特にテキストルは長い付き合いとなるだけあって魅力的な人だった。

坂本龍馬を始めとする土佐藩士たち、大隈重信や岩崎弥太郎などとの交流もまるでお母さんが面倒を見るような感じで、この辺は確かに豪傑と言っても良いかも知れない。いくらお金があってもなかなかここまでは面倒見れない。
しかしそれが後にきちんと返ってくるのだからやはり因果は巡るということだろうか。

商売人としては決して成功者ではなかったかも知れない。お慶の商売は人との繋がりの中で糸口を掴みそれを広げていくやり方なのだが、『勘を磨け』なかったこともある。
いわゆる「遠山事件」ではその「人との繋がり」が仇となった。この当時の武家というものは本当にどうしようもない。しかしお慶も決して引かなかった。そして商売人として一度は信用が地に落ちたが、その信用を自ら取り戻した。
この時なぜ大隈や岩崎は手を差し伸べなかったのかと思ったが、なるほどそういう解釈かと納得出来た。手を差し伸べたところでお慶ならその手を振り払っていたかも知れない。

こんな「大しくじり」を犯したお慶でも見る人は見ている。時代の移り変わりでご法度と言われたことが先進的となった。無鉄砲もしくじりも商売や人生の一つの節目。
終盤にタイトルの意味が分かる。実にドラマティックで清々しい物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説 幕末~明治
感想投稿日 : 2020年11月30日
読了日 : 2020年11月30日
本棚登録日 : 2020年11月30日

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