これは経費で落ちません! 9 ~経理部の森若さん~ (集英社オレンジ文庫)

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  • 集英社 (2022年3月18日発売)
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シリーズ第9作。
舞台である<天天コーポレーション>はクセ者社員ばかりで時に主人公・森若同様うんざりするのに何故かスルスルと読んでしまう。結局作家さんの上手さにまんまと引っかかっているのだろう。

不倫中、幸せになれない男、人の顔色ばかり窺う女、経費を誤魔化す、面倒は人に押し付ける、仕事が出来ないのに分からないことを素直に尋ねない…人間社会の縮図がここにあるなと毎回感じる。
うんざりしている森若だって自身を『冷たい女』と言っているしその通りだなとも思う。
結局誰しも何かしら彼らの一部分のようなところを持っているわけで、それを突きつけられるのが辛いのかも知れない。

今回は<天天コーポレーション>と<トナカイ化粧品>が合併して四か月後から始まる。
第一話で営業部長の吉村がやたらと女性社員にすり寄っているのを見て、いよいよ円城若社長と対決近しなのかと身構えていたらスルリと躱されてしまった。

もう一つの合併先<篠崎温泉ブルースパ>の経理処理がいい加減で問題になるのかと思っていたら、だからこその合併だと分かり、<篠崎~>の元社長の決断がアッパレだなと思えた。
家族経営、同族経営の良さと不安な点、両方が描かれていた。

<トナカイ化粧品><篠崎温泉ブルースパ>が加わって大所帯になった印象の<天天コーポレーション>。
経理部には元トナカイ化粧品の岸が加わった。田倉は課長待遇になりますます忙しい。森若はじめ他のメンバーも合併に中間決算に税務調査に大変だ。
他にも営業部に新メンバーが入ったり、人事異動があったりと慌ただしい。

山崎の妙な落ち着きは相変わらずだが、営業部の鎌本と広報部の室田がどんどん嫌なキャラになっている気がする。逆に総務部の玉村は佐々木真夕のおかげでちょっと成長。麻吹美華はだいぶ丸くなったというか周囲をきちんと見て気遣い出来るようになって良い感じになってきた。

一番変わったなと思ったのが森若が付き合う山田太陽。
大阪営業所異動で遠距離交際になったが双方に出張があったり週末に会えたりと遠距離感は感じない。
これまで自分本位に見えた太陽が、森若を客観的に見て気遣ったり寄り添ったりしている。

毎回佐々木真夕がパニックになるだのケアレスミスが多いだの出来の悪い社員みたいな描かれ方をしているのが気の毒だなと思う。真夕は森若と真逆でいつも大局を見ている。だから周囲の人たちを上手く繋げたり良い方向に持っていったり出来る。逆に森若は仕事は出来るが忙しくなればなるほどそれ以外のことは余計なこととシャットアウトしてしまう。どちらが良いとか悪いとかではなく、それぞれ個性があるということだ。

次回は税務調査編だろうか。それとも終わったところから始まるのか。
調査中に様々な問題が出てきてどう乗り越えるのかを見てみたい気もするが、そこを書いてくれるのか、それとも<天天コーポレーション>の新たなステージを描くのか、森若自身の新たなステージを描くのか。

本筋とは関係ないが、社内で下の名前を呼び合う天天の社風は違和感がある。部長から『勇』とか『柊一』とか呼ばれるのも部下や後輩をそう呼ぶのも抵抗があるなぁ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドラマ お仕事
感想投稿日 : 2022年7月4日
読了日 : 2022年7月4日
本棚登録日 : 2022年7月4日

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