ニッポンチ! 国芳一門明治浮世絵草紙: 国芳一門明治浮世絵草紙

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  • 小学館 (2020年10月30日発売)
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新聞記者の鶯亭金升が歌川国芳の末娘・お芳に、国芳の十三回忌が行われた明治六年頃を中心に、国芳一門のそれぞれの半生を語るエピソード集。

同作家さんの「国芳一門浮世絵草紙」シリーズの後日談らしい。シリーズはお芳の姉・登鯉を主人公に据えた騒動記らしいが、そちらを読んでいなくても楽しめた。お侠な登鯉とは対照的に地味なお芳が中年を過ぎて語るスタイルなので落ち着きがあるし、一門の弟子たちの浮き沈みを語りながらもどこか物悲しさもある。

お芳同様に有名絵師の娘と言えば、お芳に『女絵師なんていうのになったところで、哀れな末路が多い』という例にあげられた北斎の娘・応為。彼女とは対照的に、河鍋暁斎の娘・お豊は『立派な女流画家』になっただけでなく『女で初めての教授』として女子美術大学の教授にも抜擢されるほど出世した。

お芳の回想の中の登鯉は美人薄命の言葉通り、華やかな人生をあっという間に駆け抜けた女性として描かれている。
いまだに彼女を想い続ける男たちは多くいて、お芳が惚れて振られた男も後に姉を想い続けていると知る。

お芳は男性運という点では恵まれていなかったかも知れないが、そんな男たちのせいで困ったときには誰かが助けてくれている。芸術作品としての絵を描く『絵師』ではないが、千代紙など数々の小さな仕事をこなす『絵描き』として身を立てている。
国芳はじめ一門の人々の思い出と共に絵を描きながら昭和の初めまで生きた彼女と、登鯉の短くも華やかな人生と、どちらが良いかなんて決められない。
だが有名絵師を父に持つ辛さは応為もお豊も登鯉もお芳も、皆同じだったかも知れない。

河鍋暁斎と言えば最近読んだ柴田よしきさんの「お勝手のあん」シリーズに登場したのを思い出したが、この作品での暁斎は柴田作品と違って随分やらかしている。
この時代ならではなのか、国芳一門ならではなのか、暁斎に限らずとかく皆泥酔するまで飲んで大騒ぎして、皆揃って刺青まで入れて遊郭に入り浸って、喧嘩もして、新築の家に絵を描きまくって、めちゃくちゃだ。
国芳一門の人々は一緒にいたくない人ばかりだが、傍から見る分には楽しい。

暁斎同様、一門にいたのは僅かな期間だけだったのは落語家の圓朝で、彼の話も別の作家さんで読んだことがあるのだが、こちらでも真面目であちこちに気を使う彼が描かれている。
絵師も落語家も何がきっかけて売れっ子になるかは分からない。だが売れっ子になったからと言ってずっと上り調子でいられるわけではなく、何がきっかけで落ちぶれるかも分からない。
圓朝も芳年も思わぬことで足を掬われた。しかし芳年の画の真似ばかりしていた芳幾は仕方ないと言えるかも知れない。

逆に芳春のようにスパッと絵の道を諦めて別の道に行ったものの、息子が役者として成功して楽隠居出来たり、芳宗のように師匠である国芳の手伝いばかりして自分の絵はパッとしなかったものの、人気芸者となった娘のおかげで一門で一番立派な葬儀まで出してもらった者もいる。
しかし絵師として成功出来なかったことを本人たちはどう思っているのか。

結局のところその人の幸福や人生の良し悪しなんて誰にも分からない。本人はパッとしない人生だったと思っていても傍からは十分すぎるほど幸せに見えることもあるし、その逆もあるだろう。

肝心のタイトルだが「ニッポンチ」とは『日本のポンチ絵(風刺の入った漫画)』を略した造語で、河鍋暁斎と仮名垣魯文が創刊した雑誌らしい。残念ながら三号までしか発刊されなかったそうだ。
その雑誌のこと自体はエピソードとしてチラッと語られるだけだったが、『ポンチ絵』のように面白おかしく、でもちょっと哀しい皮肉のような一門の人々の人生をパラパラと見せられる作品ということだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代・歴史小説 絵師・絵
感想投稿日 : 2021年1月29日
読了日 : 2021年2月11日
本棚登録日 : 2021年1月29日

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