損料屋喜八郎始末控え (文春文庫 や 29-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2003年6月10日発売)
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「損料屋」(日用品のレンタルショップ)とあるが、主人公・喜八郎が損料屋を営むシーンはない。あくまでも損料屋は表向きの姿であり、実際は過去に世話になった元上司で北町奉行所与力・秋山久蔵と札差〈米屋〉のために探索、推理、そして『始末』を着ける、裏で動く仕事人のような感じ。

第一話では〈米屋〉を先代から引き継いだ若主人・政八が店を畳むと言う。ご時世もあるが元々商売下手なようだ。中でも同業者〈伊勢屋〉には手酷い思いをさせられているようで、どうせ畳むなら〈伊勢屋〉に一杯食わせる形で…とい喜八郎の図らしい。だが結果はちょっと違っていて。

第二話ではその〈伊勢屋〉が〈米屋〉に意趣返しとばかりに大掛かりな騙りを仕掛ける。〈米屋〉主人の政八は典型的な坊っちゃん主人。自分の裁量がないのは棚にあげて喜八郎を見下すし、ちょっと持ち上げれば思い通りに動いてくれるし。あのまま店を畳んでいれば良かったのに…と思うが、結末はさて。

第三話は料理屋〈江戸屋〉の板長・清次郎を巡ってのまたまた騙りの事件。〈江戸屋〉の女将・秀弥は喜八郎を慕っているのがアリアリで喜八郎もまんざらじゃなさそうなのに何故か進まない二人の仲。いつも手助けしてくれる〈江戸屋〉への恩返しは上手くいくのか。そしてこの話になると〈伊勢屋〉=悪徳業者という設定が変わってくる。

第四話は〈伊勢屋〉に借金をしている〈笠倉屋〉がいよいよ首が回らなくなって最後の手段と〈伊勢屋〉にある仕掛けをしようと企む。しかし〈笠倉屋〉もまた小者というか、窮地に追い込まれた故に盲目になってしまったというか。

物語の背景にあるのは札差と武家の良くも悪くも切れない縁と、武家の借金を棒引きする「棄捐令」。
札差業者の栄枯盛衰を見ているとバブルがはじけた直後の日本を見ているようだし、「棄捐令」で混乱する経済状況を見ると行き当たりばったりの政策に頼らざるを得ない今の社会のよう。
与力・秋山も良かれと思って「棄捐令」を進言したのであり、実際に実行された当初は武士仲間に感謝されたのに、結果的にはそれが札差連中だけでなく武士の首を締めることになった。
札差連中=強欲で悪徳業者だから潰してしまえ、という簡単な図ではない。そこがこの物語を複雑に面白くしている。

チーム喜八郎も頭の回る連中から体が先に動く連中まで様々いて個性的。喜八郎が頭から荒事から何でも出来ちゃうのがやり過ぎな感もあるが危ない仕事をしているのだから仕方ないか。
冒頭は取っつきにくい感じのあった文章も段々慣れてきた。まだキャラクターは硬い感じがするがシリーズが進むに連れて魅力的になっていくだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説 サスペンス・ハードボイルド
感想投稿日 : 2021年6月20日
読了日 : 2021年6月20日
本棚登録日 : 2021年6月20日

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