本バスめぐりん。

著者 :
  • 東京創元社 (2016年11月30日発売)
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感想 : 180
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本絡みのお話が得意な大崎梢さんの作品とあって楽しんで読んだ。
舞台は移動図書館〈めぐりん号〉。三千冊の蔵書をマイクロバスに積み込み、『ステーション』と呼ばれる市内十六ヶ所の訪問先を二週間掛けて巡る。
そこで出会う利用者たちとのあれこれを司書のウメちゃんと運転手のテルさんと他の利用者たちとで解決していく。

「テルさん、ウメちゃん」
大切な写真を挟んだまま本を返却してしまったという利用者からの申し出で、直後にその本を借りた利用者に尋ねると『知らない』と回答するものの様子がおかしい。
私も図書館ハードユーザーなので、図書館で借りた本に前の利用者が挟んだらしいものが出てくることに遭遇することはよくある。大抵レシートか私物の栞で勿論返却する時にその旨申し出る。たまに利用者の貸出票が挟まっていて、似たようなラインナップにニヤリとすることはある。

「気立てがよくて賢くて」
利用者減少に伴い『訪問先の廃止』有力候補となった殿ヶ丘団地。近くに保育園があることから園児たちに利用してもらえば利用者増加に繋がるのでは?と考えたウメちゃんとテルさんだが、その保育園と殿ヶ丘団地には因縁があるようで。
殿ヶ丘団地のような場所は日本の至るところにある。これからも増えていくだろう。この話は上手くまとまったが現実的には難しい。

「ランチタイム・フェイバリット」「道を照らす花」
この二話は利用者のことを他の利用者たちが大切に考えている話。見方によってはお節介になるし、でも特に中学生の女の子のように踏み込まないと心配になる状況もあるし、そのさじ加減が難しい。
『優しく微笑んで、見守るように』でも『あなたの話を聞きたい、という我々の気持ちはわかってほしい』というテルさんのスタンスは共感出来るが、そのスキルを身に付けるのは大変だ。

「降っても晴れても」
テルさんに対する利用者からのクレームの葉書が図書館に届く。内容は自分を蔑ろにして特定の女性ばかり熱心に対応しているというもの。全く心当たりのないテルさんだが。
踏み込み過ぎず、でも気にしているというスタンスが上手く伝わる人ばかりではないだろうと思ったら、何というオチ。しかしテルさんの奥さん、頼りになる。

テルさんはリタイア後の再就職で〈めぐりん号〉の運転手になったが、三千冊もの蔵書を積んで運転するだけでも大変だと思うし、本バスのセッティングから蔵書の場所を覚えたり貸出や返却業務の合間に利用者たちとの交流もする。利用者増加のために様々なイベントもやる。なかなか大変だがやりがいはありそう。悪い人が出てこないのも気持ちいい。
続編もあるので読んでみよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー・名探偵
感想投稿日 : 2021年10月23日
読了日 : 2021年10月23日
本棚登録日 : 2021年10月23日

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