タイトルの「定価のない本」とは古書のこと。
『新刊本は定価にしばられるが、古本はしばられない』
主人公の琴岡庄治が専門として扱っているのは、古書の中でも古典籍と呼ばれる貴重な書籍。
庄治の弟分でやはり古書店を営む芳松が倉庫で古書に埋もれるようにして死んでいるのが発見される。
その後、芳松の妻が失踪したり、庄治がなぜかGHQに芳松の死について調査を命じられたりと不穏な空気になっていく。
この芳松の死の真相を追求すると同時に、庄治とGHQとの闘いも描いているのだが、どちらかというとその闘いの行方の方が気になって読み進めた。
プロローグで庄治の息子・浩一が孫娘に日本の古典が安く(あるいは教科書などでタダで)読めることが当たり前ではない、『それどころか、日本人は日本の古典をあやうく全部なくしてしまうところだった』と、とても気になることを突きつける。
その意味が本編を読むと分かってきた。
実際にこのような計画がGHQの中で行われていたのかどうかは分からない。しかし当時の財閥解体や預金封鎖を始めとした様々な締め付けや、ただですら終戦直後の混乱期で誰もが現金を必要としていた時代、手っ取り早く現金を手にするために人々が行ったことは想像出来る。
白洲次郎は政治的にGHQと様々な闘いをしたが、こうした文化面での闘いもあったとしたら…という興味は湧いた。
庄治を始めとする古書店主たちの団結やその意気は気持ちよかった。ある有名作家もちょっと活躍してくれた。
今でも学校での現代史はサラッと流す程度だし、私が学生時代の頃ですら愛国心という言葉はイコール軍国主義のように結び付けられて使えなかった。それもその奥にこういう事情があったのだとしたら。なんてことを考えてしまう。
歴史を守ることは過去を振り返るという意味でも必要だし、確かにプロローグとエピローグで浩一が言うように『古典が読めるのは当たり前』ではなくて、そうなるように必死で努力してきた人たちがいるということに感謝しなければならないなと思った。
- 感想投稿日 : 2020年11月26日
- 読了日 : 2020年11月26日
- 本棚登録日 : 2020年11月26日
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