遠く離れてしまった人に気持ちを伝えておきたい。そんな願いを託せるサービスがある。
ただし気持ちを込めた品が相手の手に届くのは、依頼人の死後になる。それがこのサービスのルールだ。
それでも自分に死期が近づいたことを覚った人はさまざまな気持ちを込めて、この宅配サービスを利用する。
そのサービスの名は「天国宅配便」。
気持ちを伝える側と伝えられる側。それぞれの思いを切なく描くヒューマンファンタジー。シリーズ2作目。
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若い頃にコンビ漫才師を夢見た及川。夢破れた今では、転売屋というダークな稼業で暮らしを立てている。「小さな商社」だと見栄を張ってはいるが、胸を張れる仕事でないことは自覚しているので気持ちは荒む一方だ。
ある日、「天国宅配便」の七星という配達員が届けにきた荷物。中身は高級カメラだった。
依頼人はカメラマニアの老人。かつて同好の士を装おって近づいた及川が、値打もののカメラを何台か安く譲ってもらった相手だ。もちろんカメラは、密かに転売してたんまり儲けたのである。
件の老人が仲違いして家を出た息子にと思って残しておいたというのが送られてきたカメラで、ライカのレア物だ。本体だけで100万円はする。
荷物はもう1つあって、それは息子の成長を記録したアルバムだった。
当初はカメラを売り飛ばす気満々だった及川だが、アルバムを見るうちしんみりした気持ちになり、息子を探すことにした。
プロのミュージシャンを目指し、父の反対を押し切って家を出たという息子。その足取りを追ううち及川の心境にも変化が訪れ……。(第1話「父とカメラと転売人」)全4話およびエピローグからなる。
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これまで言えなかった気持ちをその人に伝えたい。これはよくわかります。でも、相手に届けられるのは自分の死後という設定には驚いてしまいました。
けれど、読み始めると不思議に違和感がなくなりました。この宅配業者なら申し込み時の対応で信頼できると依頼人もわかるだろうから。( エピローグからも、この宅配事務所のスタンスを推し量ることができますね。)
どれもいい話でしたが、特に気に入ったのは第2話「七十八年目の手紙」です。
一生懸命な仁美の描写に、まっすぐな純粋さや優しさがじわじわ感じられて、思わず感情移入してしまうほどでした。
相手をまっすぐ思いやる心は国境をも越えるんだ。ステキなメッセージだったと思います。
第3話も感動的だったけれど、岩子さんには家庭的な幸せもつかんで欲しかった。
このまま広之の思い出を抱いて一生涯を独り身で生きていくのかな。岩子さんのその後が気になります。
続編があるなら、社長さんや七星律さんがこの仕事に就くことになったいきさつを読んでみたいと思っています。
- 感想投稿日 : 2023年10月12日
- 読了日 : 2023年10月12日
- 本棚登録日 : 2023年5月24日
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