13階段 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2004年8月10日発売)
4.07
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本棚登録 : 14266
感想 : 1604
5

主人公は殺人の罪で服役していたが、仮釈放を許されて保護観察の身となっている男である。出所が許されたとはいえ、彼の前途は暗い。賠償金がまだ2700万も残っているのだ。
そこへ刑務官を名乗る男から依頼が転がり込む。ある死刑囚の冤罪を晴らしてほしいという。成功報酬は1千万。喉から手が出る金額だ。ただし、時間はあまりない。いつ刑が執行されるかわからないからだ。しかも、冤罪の証拠はこれから探さなくてはいけない。もちろん、「じつは冤罪ではなかった」という可能性もある。イチかバチかだ。
この設定がとてもハラハラする。「殺人を犯し、更生した人間」という主人公の内面も、丹念な取材を重ねたであろうリアリティを感じた。そして主人公が犯した殺人と、今調査している冤罪事件がやがて繋がる。この展開が面白い。
もうひとつ、個人的に強く印象に残ったことがある。依頼を持ち込んできた刑務官が、過去に自分の執行した絞首刑について、罪の意識に苛まれる部分である。この本を読んでから偶然YouTubeで、死刑執行がどのように行われるかを映像で解説した動画を見た。それを見て私はまるで自分が刑を実行する人間になったかのような錯覚に陥り、思わず目眩がした。それだけに、本書の刑務官のようなトラウマは実際にあると想像する。
正当な理由のある制度的な殺人でさえ、そこにかかわる人間は想像を絶する罪悪感に苦しむ。いま日本では安楽死が認められていないが、もし合法化されれば必ず「殺す人間」を作ってしまう。「安楽」という口当たりのいい言葉とは裏腹に、紛れもなくそれは「殺人」なのだ。本書と直接関わりはないが、その問題を考えざるを得なかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月22日
読了日 : 2023年10月20日
本棚登録日 : 2023年10月19日

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