空色勾玉 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店 (2010年6月4日発売)
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記紀神話を題材にした大きな世界観に圧倒される思いがする。

照日王、月代王の姉弟神の総べる輝(かぐ)の国。
すべて文明の光の下に置かれ、整然としたところである。
一方、すべての命と水が帰っていく闇(くら)の国は、女神が治めている。
「父神」は、二つの国の中間にある豊橋原の郷に、二人の御子を遣わし、女神との間に生まれた八百万の神々を殺し、統治下に置こうとする。

そんな中に巻き込まれていくのが本作の主人公、狭也だ。
闇の氏族で、水の乙女として闇の女神に仕える出自を知らないまま豊葦原で育ち、嬥歌の夜、真実を知る。
その晩、遠征に来ていた月代王に見初められ、狭也は采女として宮中に召し出される。
宮中で、彼女は水の乙女とは、神器である大蛇の剣を鎮める役割であると知ることになる。
そして、二神にとって「できそこないの弟」として幽閉されていた稚羽矢を連れて宮中を脱出し、闇の氏族と合流し、やがて戦乱が起こっていく。

主人公の狭也がいい。
年齢相応に、直情的に行動する。
その感情のなんとみずみずしいことか。

そして彼女は失敗し、自分の浅慮を悔やみながら成長していく。
稚羽矢とのつながりを何度も見失いかけるが、その都度、必死に再び結びなおそうと立ち上がる。
悩みながらも進んでいく彼女の強さにいつのまにか捕らえられている。

狭也と関わることにより、稚羽矢にも大きな変化が起こる。
不死であり、人間的な感覚や感情を持っていない稚羽矢が、人間のように成長し、やがて死ぬ身となることを自ら選んだのも説得力があった。

面白いのは、記紀ではイザナミが恐ろしいものとして扱われているのに、この物語ではむしろすべてを抱きとめる包容力と慈悲を体現する存在として出てくるところ。
闇の氏族の語り部、岩姫と並んで、忘れがたいキャラクターだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月18日
読了日 : 2023年8月15日
本棚登録日 : 2023年8月18日

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