終戦から1年、活気を取り戻した神田・神保町。古書の街の片隅で一人の古書店主が崩落した古書の山に圧し潰されて死んだ。事故処理を買って出た仲間の古書店主・琴岡庄司は、現場の店に不可解な細工を発見する。行方を眩ました被害者の妻、注文帳に残された謎の名前そしてGHQの影。やがて、戦後日本の文化の存続に関わる恐ろしい陰謀が明らかになる。古書店主たちは日本の文化を、歴史を自分たちの手に取り戻せるのか・・・
門井さん初読みは、戦後、GHQ占領時代の古書店街を舞台とするミステリ。肝腎の事件は刺身のツマのような扱いで、ラストの謎解きを聞いたときもスッキリ!とはならなかった。むしろそこをとっかかりとして、GHQの陰謀から日本の文化の危機を取り戻しすという古書店主の奮闘が物語のメインテーマ。駆け出し作家の太宰治や徳冨蘇峰も登場して時代を感じさせる。
GHQのこんな陰謀が本当にあったのかどうかは不勉強で知らないし、作中で感じられる作者の歴史観という微妙な問題はさておいても、「古典は『のこる』ものじゃない、誰かが『のこす』ものなんだ」という言葉には深く感じ入った。
この「古典」は「ことば」にも置き換えられるかもしれない。言葉は文化であり、その国そのものである。言葉をないがしろにし、本を読まず、省略語や絵文字だけで感じ取るようなことを続けていけば、日本語はどうなっていくのか。その時「日本人」としてのアイデンティティはどこにあるのか。なんて、色々と考えてしまった読後でした。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
本
- 感想投稿日 : 2019年10月18日
- 読了日 : 2019年10月18日
- 本棚登録日 : 2019年10月18日
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