大英帝国という経験 (興亡の世界史)

  • 講談社 (2007年4月18日発売)
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感想 : 10
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講談社の『興亡の世界史』シリーズを読んだのは3冊目なのですが、外れがないですね。どれもこれも面白い。作者はイギリス近代史・大英帝国史がご専門の井野瀬久美恵先生です。内容は、大英帝国を巡る植民地、人(とくに女性や“人”扱いされなかった奴隷など)、物、意識、記憶などを手がかりにパクス=ブリタニカの“経験”を語ってくれます。大英帝国を経験したのはいわゆる“イギリス”だけではありません。かつての植民地や自治領、またはそれらに訪れた周辺の人びと、彼らがもたらした言語や物など、世界帝国であった大英帝国から無関係でいられた地域など無いのではないでしょうか。イギリスは、かつては奴隷貿易の最先鋒であったはずなのに、突如として“解放者”となります。しかしそれでも、かつての奴隷貿易の支配者という記憶はいたるところからフラッシュバックのように蘇ります。そして蘇るたびにイギリス人に“大英帝国とはなんであったのか”をつきつけるのです。それにしても、敵味方区別せず手をさしのべる看護婦の象徴であるナイチンゲールが、実はその看護団に参加することを熱望した黒人(と白人との混血)女性シコールの入団を認めなかったことは少々ショックでした。明確な理由は伝えられていないようですが、著者は混血であるシコールには良きイギリス女性=レディ(女性の美徳として強調された自己犠牲的な献身や従順さ、思いやりなど)をナイティンゲールは認めなかったためと推測しています。ただ、救いなのは2003年のBBCによる「偉大なる黒いイギリス人(ブラック・ブリトンズ)」を選ぶ投票で、シコールがナオミ・キャンベルなどをおさえて1位になったことです。19世紀後半では「クリミアの天使」ですら認められなかったことが21世紀には認められるようになったということは、イギリス人は“大英帝国という経験”を通して何かを学んだということだと思います(そう思いたい)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 西洋史
感想投稿日 : 2008年8月3日
読了日 : 2008年8月3日
本棚登録日 : 2008年8月3日

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