進学校に勤めていらっしゃる世界史の先生方に話を伺うと、よく出てくる本が中央公論社の『世界の歴史』シリーズです近年の(とはいっても今ではすでに発刊されて10年以上立ちますが)歴史学界の動向を踏まえた歴史の流れを平易な文章で記述されており、受験世界史を語る上で大いに参考になる、とくに論述対策では欠かせない本であるという評価をよく耳にします。確かに世界の通史を一般向けに書いた本ではこのシリーズが今のところ最新であり(山川の『世界各国史』シリーズはその性格上他地域との横のつながりが見えにくく、講談社の『興亡の世界史』シリーズは通史という形をとっていない)、最近文庫化もされて手に入れやすい本です。ということで、私も時間を掛けて全巻を読破しようと模索しています。で、今回はちょっと興味のありますイスラームということで手にしました。イスラーム王朝の興亡は、アッバース朝の衰退あたりからややこしくなり、モンゴルが中央アジアを席巻する以前のこの地域のイスラーム王朝で高校世界史に登場するものだけでも挙げてみると、サッファール朝、サーマーン朝、ブワイフ朝(以上イラン系)、カラ=ハン朝、セルジューク朝(小アジアではルーム=セルジューク朝が分立)、ホラズム朝、ガズナ朝(以上トルコ系)、ゴール朝(トルコ系かイラン系か異論有り)があります。エジプト以西でもトゥールーン朝、ファーティマ朝、アイユーブ朝、マムルーク朝、ムラービト朝、ムワッヒド朝、イドリース朝、後ウマイヤ朝、ナスル朝、マリ王国、ソンガイ王国なんかがでてきます。これらを系統づけて関連づけて生徒たちに説明するのは骨です。本書はこうした最もややこしい時代のイスラームを効率よく、ときにはエピソードをちりばめながら書かれてあるので、とても役立ちました。とくにセルジューク朝で活躍したニザーム=アルムルクとイラン系の大詩人ウマル=ハイヤーム(と暗殺教団を組織したイブン=サッハーブ)とが同じマドラサで学んだ親友同士という伝説があることに大いに関心を持ちました。これは伝説の限りを出ないものですが、この伝説を知っておくことによりウマル=ハイヤームがセルジューク朝で活躍した詩人であることを確実に覚えます。もっというならば、イラン最高の詩人とうたわれるフィルドゥシーとの区別も付けやすくなります(彼はガズナ朝の詩人)。要はこれで彼らの出身がどっちか迷わなくなるということです。伝説やエピソードは単に興味深いだけでなく世界史学習の手助けにもなります。そのような話を少しでも多く仕入れるためにも、こうした世界史シリーズを読み込むことを続けていきたいと思います。
- 感想投稿日 : 2010年9月27日
- 読了日 : 2010年9月27日
- 本棚登録日 : 2010年9月27日
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