世界の歴史 (23) アメリカ合衆国の膨張

  • 中央公論新社 (1998年6月1日発売)
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本書が対象としているのは、独立革命後から第一次世界大戦前夜のアメリカ、世紀でいうと19世紀初から20世紀初にかけての、まさに青年アメリカが膨張していく過程が取り扱われています。今でもアメリカ人の人気が高い大統領であるジェファソン、ジャクソン、リンカン、マンキンレー、セオドア=ローズヴェルト、ウィルソンなどが活躍する時代です。
この時代はとにかく奴隷制・黒人差別を軸に展開していきます。オサリヴァンが唱えた「マニフェスト=ディスティニイ(明白なる運命)」を合い言葉にフロンティアを西へ西へと進め、テキサスを併合しメキシコを打ち負かし、太平洋岸まで達しますが、これも北部と南部との奴隷制をめぐる対立と妥協が複雑に絡んできます。
アメリカ合衆国史上唯一の内戦であり、19世紀最も大きな戦争でもあった南北戦争をきっかけに奴隷制は制度上廃止されます(合衆国憲法修正第13条)が、「分離すれど平等」という論理で差別がより陰湿化し、ジムクロウ制度とよばれる南部に作られた事実上黒人を差別する制度がなくなるのは第2次世界大戦後のケネディやジャクソンを動かした公民権運動を待たなければなりません。
この時期のアメリカは、モンロー教書にも見られるように基本的に対外不干渉政策をとるので動きが見えずらく(実質的にヨーロッパと争ったのは1812年からのアメリカ=イギリス戦争と1898年のアメリカ=スペイン戦争のみ)、ヨーロッパに比べて高校世界史に出る項目も少ないのですが、今年の早稲田大学国際教養学部に大問まるまるこの時期のアメリカについて聞かれてあるのでおろそかにはできません。
それにしても、アメリカの「自由」を求めるパワーは良し悪しは別としてものすごいものがあります(むしろ自分たちの欲求を叶える大義名分として「自由」という言葉を使っているようです)。それは政治や経済だけでなく文化にも及びます。この時期のアメリカ人作家といえばエマソン、ホーソン、メルヴィル、ホイットマンが挙げられますが、彼らに共通するのは「トランセンデンタリズム(超絶主義、乗り越え主義)」という思想、つまり身分や貧富など日常経験するいろいろな区分を乗り越え、自己の中にある絶対的な価値・神性を把握するというもの。既存のものを乗り越え、自己の内面に従うのはまさに自由であるということといえるのではないでしょうか。
19世紀後半に日本は開国し、この若きパワーで膨張するアメリカに衝撃を受け、さまざまなものが影響を受けます。それは政治や経済、思想から文化まで幅広く、徳富蘇峰の『国民之友』や、1917年創刊の『主婦之友』もその中の一つです。
アメリカという国は、ある意味まさにこの時期に完成されたといってよいでしょう。変革と墨守、善と悪、自由と束縛、合理と非合理とが複雑にからみあい、止揚され、坩堝とかし、それでもなお前進し続けるアメリカには好む好まざるとに関わらず驚かされるばかりです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 西洋史
感想投稿日 : 2013年2月20日
読了日 : 2013年2月19日
本棚登録日 : 2013年2月19日

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