「編集手帳」の文章術 (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年1月20日発売)
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新聞コラムの中でも人気が高いと言われる「読売新聞/編集手帳」の筆者が語る、自身の文章術。

『「編集手帳」の文章術』 (竹内政明 著) | 自著を語る - 本の話WEB http://hon.bunshun.jp/articles/-/1310

文章術についてまとめた本でありつつも、その術について語る場面では随時そのテーマに沿った内容の「過去の編集手帳コラム」を引用し、読み物としても楽しく読めるようになっている。漫才をやらなくなったダウンタウンのフリートークを聞いていると、それが実は自然に漫才になっているような雰囲気に似ている。私自身はもうダウンタウンを見なくなって久しいけれども。


以下、印象深い内容についてのまとめ
・氏の語るコラムの理想形(P52)
戦争中、海軍の艦艇は航行にあたって「之字運動(のじうんどう)」というのをやっていたそう。敵軍の攻撃をさけるために「之」の字に似たジグザグ航法をとる。
コラムを書くときも「之字運動」を意識している。書き出しの部分を読んだだけでは本題が何であるのか検討がつかない。その日の本題に興味のない読者にも、読んで損をさせない。拾い物があったと満足してもらう。コラムを本題一色に染め上げず、無駄話の寄り道をしながら「之字運動」で書き進めていく。
魅力ある雑学の「マクラ」、本題や自身の主張などの「アンコ」、本題に関係があってもなくても良いが余韻を残したい「サゲ」を意識。

・編集手帳では体言止めをあまりみかけないが、意識して使わないのか?との読者の質問に対して(P154)
日本語は文末の処理が難しくて「だった」「だった」「だった」の機関銃型や「した」「した」「した」の足音型では文章が単調になる。「-である」や「-した」「(美・楽・悲)しい」「-ない」「-だろう」「-する」など限られた役者をどうちりばめて起伏をつけるか、書き手はいつも神経を使う。
体言止めは一種の思考停止というか、役者をちりばめる努力の放棄を意味するから、そうたびたびは使えません。

・うまい引用とは(P184)
いわゆる「うまい引用」とは次の3つが満たされている場合です。
 1)コラムの本題に合っていて、こじつけではなく自然に本題につながっていくこと
 2)読者の興味をひく内容であること
 3)書き手がどうしてその引用を思いついたのか、読者にとって謎であること
1)と2)はそのままの意味であるので、ポイントは3)。
「インターネットを駆使したり、図書館に足を運んだりすれば、このくらいの引用は自分にもできる」と読者に思われたら、引用者の負けです。
例えば「キス」という本題に対して、啄木の歌が引用されているとするならば「ネットで<啄木>と<キス>を入力して検索したんだろうな」と思われてしまう。ところが「キッス-ジョーク辞典は定義をして『一階のご都合を二階の人に尋ねる習慣』という(阿刀田高 -ジョークなしでは行きられない<新潮社>)」がでてきた場合には、書き手がどのようにしてこの引用文を探り当てたか、読者は恐らく見当がつかないでしょう。
「コラムのテーマにぴったりのエピソードや詩歌がたちどころに現れる。手品みたいだな。」と読者を不思議がられるところに引用のささやかな楽しみがある。

・引用の工夫(P193)
「之字運動」でコラムを書くといったが、ひとつ間違うと、まとまりない印象を与える危険を秘めている。
そこでひとつの工夫として「尾頭付き」の引用を心がけている。書き出しに何か引用したならば、締めくくりにもその引用に関連した一節を配する。

・2004年12月3日づけの編集手帳より(P194)
「時間がなかったので長文になりました」と書簡に書いたのは哲学者のパスカルだが…
(短くてもぐっとくる手紙がテーマ)

・筆者の引用にいたる作業手順
「読書」「コピー」「ノート」「バインダー」「カード」
読書して、面白いエピソードはコピーし、必要に応じてノートにとり、コピーはバインダーに整理しカードでタグ付けする。
カードなどは、忘却のための装置。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ガイド
感想投稿日 : 2013年5月17日
読了日 : 2013年5月12日
本棚登録日 : 2013年4月29日

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