フィリピンに渡ったまま所持金がなくなり、帰国できずに不法滞在状態にある5人の邦人男性を取材したルポルタージュ。
日本であればビザ切れ等で不法滞在状態になってしまった外国人は発見され次第強制送還になりそうなものだが、フィリピンは違うらしく、罰金を入国管理局に収めないと帰国できないそうだ。一年間不法滞在した場合、約3万ペソ(約6万円)の支払いが必要になるという。更に帰国するための航空運賃も必要で、所持金のない状態になってしまった者の多くは支払い能力も金を調達するあてもないため、そのままずるずると不法滞在を続けているという。
誰しも盗難や強盗被害などで海外滞在中に所持金がなくなる可能性はあるだろう。しかし万が一そうなっても、多くの人は日本大使館や警察を頼り、日本の親類や友人に連絡をつけて、送金してもらうなり借金するなりして、とにかく帰国しようとするだろう。
この本で取り上げられている男たちは何故それをしないのか。
読む前はそれを疑問に感じていたが、彼らは皆既に何度か日本の縁者に送金してもらったもののその金を帰国に使わず使ってしまったか、あるいは送金してくれる人のあてがないのだった。
彼らのほとんどは日本のフィリピンクラブで知り合った女性を追いかけてフィリピンに渡った男たちだった。そうした女性たちは金が続くうちは彼らを大切にしたが、搾り取るだけ搾り取ると彼らを捨てる。行くあてもない男たちは、現地の貧困層の住民の情けを得て、どうにか生きているのだ。
著者もたびたび言及していたが、フィリピン人の博愛主義はちょっと理解できない。もちろん男たちから金を搾り取って捨てるような者もいるのだが、その一方で、縁もゆかりもない、己の生活だって苦しいはずの貧困層のフィリピン人が、「可哀想だから」というだけで食事や寝床の面倒を見たりするのだ。
いくらキリスト教の国だからといって、この博愛主義はちょっと理解できない。尊い行いだとは思うが、こうした温情がなければ困窮邦人はもっと必死にもがこうとするのではないだろうか。
この本に出てくる5人の男たちの置かれた苦境は、同情の余地がほとんどなく、自業自得という面が大きい。しかし、皆帰国のチャンスが全くなかったわけではなく、送金してくれたり、帰国のための手助けをしてくれようとした人がいた。
にも関わらず、彼らはそのたびに自らその機会を潰し、宙ぶらりんな立場を自分の意志で選び取っているのだ。
困窮邦人になった経緯はそれぞれ異なるとはいえ、傍若無人で恩知らずな態度は共通しており、帰国に協力しようとした人たちの虚しさを思うと何とも言えない気持ちになる。
時々「何もかも捨てて海外に高飛びしたい」と思うことは誰にでもあるだろうが、その結果の現実の一端を垣間見た気がした。
- 感想投稿日 : 2012年7月23日
- 読了日 : 2012年7月14日
- 本棚登録日 : 2012年7月23日
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