クリスティーが得意とする、遺産相続と男女間の嫉妬を背景にして起こる殺人事件。ポアロ、マープルではなく、バトル警視が探偵役であるのは、犯人をいったん見誤るという状況を作り出すためだろうか。冒頭のバトル警視の娘の出来事や、後半で目撃証言者となるマクハーターの話がうまく真相とつなっているところに、ミステリーの女王の匠の技を感じた。
この事件の核となるトリックについては、私はこれまでに、クイーン、横溝正史、有栖川有栖の作品で使われているのを知っている(クイーンの作品の方が書かれたのは約十年も前)。本作品では、アリバイが問題にされていないので、このトリック自体はそれほどうまく活かせていないと感じた。また、マクハーターの目撃証言者が出てくるまでは、犯人を特定するような決め手に欠ける事件の状況であり、ミステリーとして特に特筆するような内容を持ち合わせていないと感じる。ただし、動機に関してはひねりがあって、かなり屈折した動機なのだが、個人的にはその心情は理解しがたい。
「殺人は終局であり、物語ははるか以前から始まっており、あらゆるものがその終局、ゼロ時間の一点に集中されている」という、作品中で弁護士トリーヴスが語っている言葉を体現するような作品を書きたかったというのが本作品の創作意図ではないだろうか。
本作品は事件を取り巻く人物の配置が絶妙であり、人間関係をうまく構築して、人物を適切に配置さえすれば、事件は起こるべくして起こるということなのだろう。
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- 感想投稿日 : 2018年6月30日
- 読了日 : 2018年6月30日
- 本棚登録日 : 2018年6月30日
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