増補版 街場の中国論

著者 :
  • ミシマ社 (2011年2月25日発売)
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風邪をひいているときにワインを飲んで、そのワインの味が全然わからないときがある。鼻が詰まると、よいワインの10%もその価値をアプリシエイトできないだろう。疲れているときにレストランで食事をしても「なんか今いち」と思うことがある。先月行ったイタリアンも僕らの中では「まあまあ」だったのに、実はめちゃくちゃ美味しかったことに気がついた。全てはmy faultで相手に責任はないのである。

というわけで、あるものの善し悪しをみるときは、こちら側のコンディションもとても大切になるのである。

長々言い訳しているのは、本書である。僕は2009年に「中国論」を読んだが、あまりインプレスされなかった、、、と当時のブログに記している。その根拠は特に示していないが、新幹線で3冊読んだうちの1冊だったので、速読してそう「即決」してしまったのだろう。

汗顔の至りである。面白いと奨められてこの増補版を読んだが、実に面白かった。

僕は北京に1年住んでいたので中国のことが「わりと分かっている」気になっていたのだが、本書を読んで「本当のところは」まるで理解していなかったことに気づかされた。2009年から数年、外国を論ずるとはどういうことか、学んだのも大きいかもしれない。「辺境論」を読んだ後に本書を読んだので日本の立ち位置がより良く理解できたのかもしれない。増補版といっても尖閣諸島やオリンピックなどのエピソードが加わっただけで、本旨は全く変わっていないのだ。本書は、そのトピックが古いにもかかわらず、今読んでも新しい普遍性を持っている。

少なくとも本書は速読には向いておらず、むしろ行間を読み取るように丁寧に読むのが肝腎だ。すいすい読める「内田節」にだまされてはいけないのである。僕は最初から読み方を間違えていたことになる。

アマゾンの点(星)つけが信用できないのは、読み手の力が顧慮されていないことにある。読み手がプアだとどんな名著を読んでも「僕にはピンと来ませんでした」という、それこそピンと来ないコメントと低い星しかついてこない。

一度読んでぱっとしなかったときも、それは僕のレベルの低さゆえかもしれない、という謙虚さを持っておいたほうが良いと思い知った。さらっと読んだ本を酷評するのはとてもリスクの高い行為なのである。それは読み手の知性が低いことを示す、点にツバする行為以外の何者でないこともあるのだ。

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感想投稿日 : 2011年3月30日
本棚登録日 : 2011年3月30日

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