暗渠の宿 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2010年1月28日発売)
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私のブログ
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1993665.html
から転載しています。

西村賢太作品の時系列はこちらをご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998219.html

完全にハマりまくっている西村賢太ワールド。本作もいくつかの短編で構成されている。

「けがれなき酒のへど」
風俗嬢に100万騙し取られた話が一人称で描かれる。普通の恋をしたいと願うも叶わず、誰でも見抜ける詐欺に引っかかってしまう。嗚呼哀しい。著者の場合、せっかく素人女性と出会っても、病的とも言える短気により関係をぶち壊してしまうもんな。これについて著者は一応反省はしている。
「私なら人前で、いや人前でなくともそんな下らぬことできつく面責なぞされたら間違いなく張り倒す。しかしそれだから駄目なのだろう。それだからこそ、私が普通に恋人。獲得し、共に普通に牛丼を食べたりするなぞとうてい見果てぬ夢物語、はなその資格免許からして取得できないのであろう。」
分かってるなら改めればいいのになと思うが。

「暗渠の宿」
女と同居先を探して落ち着くも、喧嘩が絶えない話。
まあ口の悪いこと悪いこと。よくぞこんなに口汚く罵れるものだ。
「よくもこんな生ゴミをぼくの夕食に出しやがったな!黙って見てりゃもたもた手間取りやがってよ、こんなのは馬鹿みたいに説明書き通り作る必要なんかないんだよ。融通の利かない奴め。大学出てたって何の役にも立ちやしねぇ。ここまでぬるけりゃ、猫だって気持ち良さげに舌を洗い出すぜ。」「お前もとうどう、薄暗いお里を明かし始めてきたな。そりゃお前も根は水呑みの類であることは薄々勘付いてはいたけどよ、少なくともこのぼくと一緒にいようっていう女ならばよ、もちとエチケットというものをわきまえて、本来どこまでも味方であるべきぼくを捕まえて、借りてきた猫呼ばわりするなぞいう育ちの悪い真似は、しない方がいいんじゃないのか」

二度目の感想
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1993665.html
ひたすらゲスな心情や言動が描写されるが、男なら一度は読むべき作品だと思う。貫多の言動ひとつひとつに、それに至るための心情の移り変わりが丁寧に織り込んである。
ひとつだけメモ。
西村賢太作品には頻出する表現2つ。
「黄白を一切介さない」
お金のかからないということ。
「ロハで」
タダで。只をばらしたものらしい。

三度目の感想
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/2007157.html
「けがれなき酒のへど」と「暗渠の宿」の2作品が収録されているが、どちらも「私」目線の一人称。
まぁとにかくダメ人間全開な西村賢太、いや北町寛多。いや一人称だから北町寛多という名前は出てこないか。
この作品のそこはかとない魅力はなんだろう…。
思えばこの「暗渠の宿」で2007年に野間文芸新人賞を受賞して、2011年の芥川賞受賞の「苦役列車」へ繋がったんだなぁ…。
そしてもう一つの作品「けがれなき酒のへど」はデビュー作という。
言わば本書は西村賢太の私小説の原点とも言える。
こんな作品を私も書きたいな…。自らの恥部を晒さねばならないが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 私小説
感想投稿日 : 2022年1月22日
読了日 : 2020年1月3日
本棚登録日 : 2022年1月22日

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