この著者のことは、ワーキングプア関連のテレビ番組で知った(多くの人がそうだろう)。あの「年越し派遣村」の“村長”役でもある。
穏やかな話しぶりの中にも強い意志を秘めた様子に、「この人、只者じゃないなあ」と感じて興味を抱いた。
本書は、著者のこれまでの活動をふまえた、いまの日本の「貧困問題」の概説書である。優れた運動家である著者が、同時に一級の論客でもあることを示す好著になっている。すこぶる論理的で明晰な文章。それでいて、その底に著者の熱い思いを感じさせるところがよい。
貧困を「自己責任」とする論者への反論が、ていねいになされている。私自身の心の中にもあった、「そうはいっても、ワーキングプア(あるいはホームレス)になった側にも責任の一端はあるだろう」という先入見を突き崩され、蒙を啓かれた。
後半では、著者が事務局長をつとめる「もやい」など、貧困問題解決を目指す人々の連帯の広がりがリポートされる。
「政府が悪い、大企業が悪い」と批判しっぱなしで終わるのではなく、相手の歩み寄りも是々非々で評価しつつ、少しずつ現実を変えていこうとする粘り強さに好感を抱いた。
印象に残った一節を引く。
《貧困状態にまで追い込まれた人たちの中には、立派な人もいれば、立派でない人もいる。それは、資産家の中に立派な人もいれば、唾棄すべき人間もいるのと同じだ。立派でもなく、かわいくもない人たちは「保護に値しない」のなら、それはもう人権ではない。生を値踏みすべきではない。貧困が「あってはならない」のは、それが社会自身の弱体化の証だからに他ならない。
貧困が大量に生み出される社会は弱い。どれだけ大規模な軍事力を持っていようとも、どれだけ高いGDPを誇っていようとも、決定的に弱い。そのような社会では、人間が人間らしく再生産されていかないからである。誰も、弱い者イジメをする子どもを「強い子」とは思わないだろう(209P)》
- 感想投稿日 : 2019年4月12日
- 読了日 : 2009年3月5日
- 本棚登録日 : 2019年4月12日
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