子どもの貧困: 日本の不公平を考える (岩波新書 新赤版 1157)

著者 :
  • 岩波書店 (2008年11月20日発売)
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 貧困研究者が、日本の貧困問題を「子どもの貧困」に的を絞って考察した本。

 著者は国立社会保障・人口問題研究所国際関係部第2室長という役職にある人で、湯浅誠や東海林智のように「貧困の現場」に直接かかわっているわけではない。ゆえに、湯浅らの著作にあるような生々しい人間ドラマは、本書にはない。それに、データや図表を駆使した内容はどちらかというと政府が出す白書のようで、無味乾燥な感じがしないでもない。

 それでも、アカデミックな場で貧困問題がどのように論じられてきたのかが概観できる点では有益な本だ。また、著者自身がまえがきで「本書の目的は、日本の子どもの貧困について、できるだけ客観的なデータを読者に提供することである」と書いているとおり、資料的価値も高い。

 日本は痩せても枯れても経済大国であるし、もともと「子どもをたいせつにする国」だと思われていた(江戸から明治期にかけて来日した海外の識者たちがこぞって、「日本人ほど子どもをかわいがる民族はいない」と、驚きをもって書き記している)。

 が、じつはその日本が、子どもの貧困対策においては先進諸外国に比べて大きく立ち後れていることを、著者はさまざまな角度から論証していく。

《日本の家族政策の多くは、子どもの貧困の削減を目的としていない。その理由は、日本は、長い間、欧米諸国に比べて低い失業率を保っており、「国民総中流」などというキャッチフレーズが浸透していたこともあって、貧困そのもの、ましてや子どもの貧困は、政策課題となってこなかったからである。》

 その結果、日本の家族関連の社会支出はGDPの0.75%、教育への公的支出はGDPの3.4%と、いずれも先進諸外国に比べて少ない。
 日本でとくに深刻なのは、母子家庭の貧困である。

《日本の母子世帯の状況は、国際的にみても非常に特異である。その特異性を、一文にまとめるのであれば、「母親の就労率が非常に高いのにもかかわらず、経済状況が厳しく、政府や子どもの父親からの援助も少ない」ということができる。》

 そして著者は、「子どもの必需品」(「子どもが育つうえでなくてはならない」と人々が考えるもの)をめぐる調査の国際比較をふまえ、次のように喝破する。

《日本の一般市民は、子どもが最低限にこれだけは享受すべきであるという生活の期待値が低いのである。このような考えが大多数を占める国で、子どもに対する社会支出が先進諸国の中で最低レベルであるのは、当然といえば当然のことである。ほかの先進諸国では、すべての子どもに必要であると思われている項目でさえも、日本では「与えられなくても、仕方ない」という認識なのである。》

 日本における「子どもの貧困問題」が思いのほか深刻になっていることを示して、驚きの一冊。最終章では、著者が考える子どもの貧困対策も提示されている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 貧困問題
感想投稿日 : 2019年3月25日
読了日 : 2009年12月28日
本棚登録日 : 2019年3月25日

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