原民喜 死と愛と孤独の肖像 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2018年7月21日発売)
4.28
  • (29)
  • (20)
  • (10)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 349
感想 : 31
4

私は梯久美子こそ当代きっての名文家の一人だと思うし、もちろん優れたノンフィクション作家だと思っている。
だからこそ期待のハードルが上がっていて、残念ながら、本書はそのハードルを超えられなかった(エラソーですね、すみません)。

よくできた評伝ではあるが、梯久美子の本としては印象が薄い。かつての大傑作『散るぞ悲しき』などと比べてしまうと、割を食って見劣りがするのだ。

終盤、原民喜の晩年にささやかな幸をもたらした女性・祖田祐子に梯が独自取材をするあたりから、俄然、文章が精彩を放ち始める。が、そこまでは〝フツーの評伝〟という感じで、あまり面白くない。

ミューズであり、母のごとき庇護者でもあった妻に先立たれた原民喜は、鉄道自殺によって世を去るのだが、その少し前に出会った年若い祖田祐子に、恋愛感情とも呼べないほど淡い、ある種ホーリーな感情を抱く。

原民喜と祖田祐子、そして若き日の遠藤周作――3人の不思議な関係を描いた終盤こそ、本書の圧巻である。

それにしても、原民喜という人はなんと孤独で、なんという生きづらさを抱え込んだ文学者であったことか。汚れきった娑婆世界で生きることに向いていない、硝子細工のように繊細な人だったのだ。

現代のコミュ障・ぼっち・メンヘラたちは、本書を読んで原民喜に共感できるに違いない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学(作家論など)
感想投稿日 : 2018年12月15日
読了日 : 2018年12月15日
本棚登録日 : 2018年12月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする