イグナシオ (角川文庫 は 16-5)

著者 :
  • KADOKAWA (1999年2月1日発売)
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本棚登録 : 292
感想 : 37
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 私は花村作品では『ブルース』『眠り猫』『二進法の犬』『ゴッド・ブレイス物語』が好きだが、その4作に匹敵するノンストップ・エンタテインメント。

 花村の芥川賞受賞作『ゲルマニウムの夜』はこの『イグナシオ』を焼き直したものと言われていて、花村自身もそのことを認めている。

 『ゲルマニウムの夜』は私も発表当時読んだけれど、「焼き直し」とは感じなかった。最初の舞台(修道院とは名ばかりの、非行少年の教護施設)が共通で、よく似た場面も登場するけれど、作品としてはまったく別物だと思う。
 この程度の類似で「焼き直し」と批判されてはかなわんだろう、という気がする。2作とも、花村自身の実体験(児童福祉施設での生活)に根差しているのだし。

 並外れた美貌と知力を兼ね備えた悪魔のごとき混血少年・イグナシオが衝動的にくり返す殺人と、あてどない彷徨(逃亡とはちょっと違う)を描いている。ストーリーはかなり強引で粗削りだが、イグナシオが愛する3人の女性の描き方がたいへん生々しく、鮮烈で素晴らしい。

 3人のうち1人は修道女で、もう1人は日韓混血の高級娼婦……という、一歩間違えば安手のポルノになりかねない人物設定。それでも3人とも、血が通った女性としてのリアリティを具えている(男にとって都合のいい描き方ではあるが)。花村は、艶めかしく女を描くのがうまいなあ。

 そういえば、この作品は1996年に映画化されている。私は未見だが、イグナシオ役がいしだ壱成だというだけで、観なくても失敗作とわかる(笑)。
 いしだ壱成では白人との混血には見えないし、凄みのある美貌というわけでもないし、並外れた知力をもつようにも見えない。絵に描いたようなミスキャスト。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説
感想投稿日 : 2019年4月3日
読了日 : 2009年4月13日
本棚登録日 : 2019年4月3日

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