『週刊アスキー』連載の単行本化。映画のみならず音楽にも造詣の深い著者が、初めて出した音楽コラム集だ。
1回につき1曲の洋楽ロックを取り上げ、歌詞の意味と歌の舞台裏を探っていくもの。
作者であるアーティストのインタビューなどの資料を読み込み、曲に込められた真意を探っていく鮮やかな手際は、『映画の見方がわかる本』で名作映画の見事な謎解きをした手際と同じだ。
本書の「はじめに」で、著者自身も次のように書いている。
《映画評論家としての著書『映画の見方がわかる本』や『トラウマ映画館』は思春期に観て衝撃を受けた映画を、大人になってから集められる限りの資料を基に腑分けしていく作業だったが、これはそのロック歌詞版です。》
私は、町山の著書では『映画の見方がわかる本』がいちばん好きだ。その「ロック歌詞版」(ただし、町山の思春期にあたる昔の曲のみならず、ごく最近の曲も俎上に載る)である本書も、当然のごとく面白かった。
町山は映画評論家の枠を超え、当代を代表する優れた文筆家の一人だと私は思っているが、本書でその感をいっそう強くした。
帯に大槻ケンヂが「英語できない身としては目からウロコの連続!」という推薦の辞を寄せているが、まったく同感。歌詞の意味がよくわからないまま聴いていた曲のほんとうの意味と舞台裏がわかって、いちいち目からウロコ。
スマッシング・パンプキンズの「ディスアーム」が、ビリー・コーガンの凄絶な少年時代を歌った曲だとは知らなかった。
フィル・コリンズの「夜の囁き」に、自分を裏切った元妻への激しい怒りが秘められていたとは知らなかった。
ザ・フーの「フー・アー・ユー」が、ピート・タウンゼントが酔っぱらってセックス・ピストルズの面々に説教したことを元にしているとは知らなかった。
カーリー・サイモンの「うつろな愛」の冒頭で、カーリーがボソッとつぶやく言葉が「Son of a gun(あんちくしょう)」なのだとは知らなかった。
……そんな具合で、まさに「目からウロコの連続!」なのである。
最近は音楽好きでも洋楽をまったく聴かない人が多いらしいが、洋楽ロックが好きな人なら間違いなく楽しめる本。180ページに満たない薄い本だが、内容は濃密だ。
欧米のロック・アーティストの多くが、想像以上に重い社会的メッセージを曲に込めていることがわかって、驚かされた。それにひきかえ、日本のロックの多くは歌詞がなんと空疎であることか。
- 感想投稿日 : 2018年10月20日
- 読了日 : 2013年5月28日
- 本棚登録日 : 2018年10月20日
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