ルポ - 子どもの無縁社会 (中公新書ラクレ 407)

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年12月9日発売)
3.71
  • (10)
  • (21)
  • (16)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 188
感想 : 24
2

 一般に「無縁社会」という言葉からイメージされるのは、孤独な派遣労働者であったり、独居老人であったりする。つまり、児童虐待問題を除けば「大人の世界」の問題としてとらえられがちなわけだ。
 本書はそんな無縁社会の問題を、子どもたちに焦点を当ててとらえ直したもの。

 たとえば、派遣労働者のワーキングプア問題といえば「収入が少なくて結婚できない」独身男女をイメージしがちだが、本書は“収入が少ない中でも子どもをもうけた派遣労働者”の、その子どもたちの問題としてとらえ直すのである。

 社会のひずみは弱者の中にこそ集約されてあらわれる。「無縁社会」の問題もまた、日本の子どもたちの世界に大きく影を落としている。著者は独自取材と各種データから、その影に迫っていく。

 たとえば、住民票を残したまま1年以上所在不明になり、その後の就学が確認されない子ども――「居所不明児童生徒」は、2011年に1183人もいたのだという。
 また、全国の児童相談所が対応した「置き去り児童」「棄児」(捨て子)も、それぞれ212人、25人に及んだという(2009年度)。

 そうした数字以上に、実際に子どもを虐待したり、それを放置したりした周囲の大人たちの言動に驚かされる。
 たとえば、実の子を虐待死させた母親が、その死のわずか2日後に虐待の片棒を担いだ男と結婚した事実について、裁判の被告人尋問で次のように証言したのだという。

《「娘が死んだすぐあとで結婚することに抵抗はなかったです。二人で生活したかったし、今度は彼の子どもを産みたいな、って思いました。亡くなった娘の死亡届は出さないで、先に彼との養子縁組をしました。死んじゃったあとだけど、でもやっぱり父親がいたほうがいいと思ったからです」》

 また、ネットゲームに夢中になり、「ゲーム内で知り合」った相手と結婚した若い女の、次のような驚くべき発言もある。

《結婚から一年後の二○○八年、綾乃は妊娠したが、その事実に気づいたときは「がっかりした」のだという。
「子どもがほしくなかったわけではないけど、今は時期がマズイなと。ちょうどゲームが佳境で、これから必死にがんばらなくちゃというときだったんです(後略)」》

 そしてこの女は、出産後も育児のほとんどを同居の両親にまかせっぱなしにし、ネトゲに没頭しつづけているのだという。

 まあ、本書で取り上げられているのは極端な例だろうし、安易な一般化は慎むべきだが、それでも目がテンになるような事例がずらりと並んでいる。

 本書は、ルポとしての出来はB級と言わざるを得ない。事例の羅列に終わっていて、描かれた現象についての深みのある考察もなく、状況を改善するための提案がなされるわけでもない。読んでいて、「ひどい親がいるもんだなあ」「かわいそうな子だなあ」とは思うものの、そこで止まってしまう感じなのだ。

 だがそれでも、「日本社会がとんでもない方向に進みつつある」と行く手に暗雲が立ち込めるような重い読後感は捨てがたく、一読の価値はあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション一般
感想投稿日 : 2018年10月26日
読了日 : 2012年4月23日
本棚登録日 : 2018年10月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする