エッセイの書き方-読んでもらえる文章のコツ (中公文庫 き 30-15)

著者 :
  • 中央公論新社 (2018年8月21日発売)
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感想 : 15
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 当代きっての人気エッセイストによる、エッセイの書き方入門。2010年に刊行された『エッセイ脳――800字から始まる文章読本』を改題しての、待望の文庫化だ。

 京都造形芸術大学通信教育部での講座をベースにしたものだそうで、話し言葉で書かれており、すこぶるわかりやすい。

 仕事柄、文章読本やライター入門のたぐいをたくさん読んできたが、エッセイの書き方入門については本書がベストだと思う。一昔前なら木村治美の『エッセイを書きたいあなたに』がイチオシだったが、いまなら断然これだ。

 何が素晴らしいかといえば、本書で開陳される岸本流エッセイ術が、徹頭徹尾論理的であること。
 題材の選び方、うまい書き出しのコツ、タイトルのつけ方、「枠組みの文」「描写」「セリフ」のバランス配分など、エッセイを形作る要素一つひとつについて、岸本さんの中には明晰な論理に基づいたルールがあり、それに則って構築されているのだ。
 岸本さんはそのルールを、自作エッセイを随所で例に引いて解説していく。

 エッセイというと、筆の向くまま好き勝手なことを書きつらねていると思われがちだが、第一線のプロはこれほど緻密な計算のもとに書いているのだと、感動すら覚える。

 本多勝一の『日本語の作文技術』という、文章読本の名著がある。あれも、明晰な論理に基づいてよい文章の書き方を指南するものだった。
 明晰な論理に基づくからこそ、万人向けの入門書になり得る。その論理を適用していくことで、初心者にもよい文章・悪い文章の区別がつけられるからだ。本書はいわば、『日本語の作文技術』のエッセイ版である。

 とかくエッセイは、小説や評論に比べれば書くのがかんたんだと思われがちだ。
 「小説は物語を構築しないといけないし、評論は膨大な知識量とアタマのよさが求められるけど、エッセイなら自分の身の回りのことを書けばいいんだから、楽勝だ」と……。

 だが、商品価値のある(=原稿料のもらえる)エッセイを書くことは、シロウトが思うよりもずっと難しい。エッセイスト専業で生計を立てつづけることは、さらに難しい。岸本さんが30年以上人気エッセイストでありつづけているのは、じつはすごいことなのだ。

 本書には、その難事をなし遂げてきた原動力が明かされている。たんに東大出の癒し系美熟女だから売れているわけではないのだ(むろん、それも人気の要因ではあろうが)。

 エッセイストを目指す(それは、じつは小説家になるよりも狭き門なのだが)人は、とりあえず本書を熟読すべし。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ライター入門
感想投稿日 : 2018年11月5日
読了日 : 2018年11月5日
本棚登録日 : 2018年11月5日

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