『モーニング』で、すぎむらしんいちによるマンガ化が進行中(※注/2011年の話)の小説である。マンガ版が妙に面白くて毎週読んでいるので、気になって原作も読んでみた。
原作も、かなり面白かった。ちなみに、単行本の装画もすぎむらによるものだ。
タイトルから、老人たちが賭博をする話なのかと思いきや……。うーむ、そうきますか。「まさかそこに連れていかれるとは思わなかった」と、読者の多くが驚くであろう展開を見せる小説。最初から最後まで、話の展開がまったく読めなかった。予定調和的な「よくあるストーリー」とはおよそかけ離れた物語なのである。
あらゆるストーリーが語り尽くされたかに見える21世紀にあって、「こんな小説、初めて読んだ」と読者に思わせる(少なくとも私はそう思った)のはすごいことだ。
しかも、人物や舞台の設定はとくに突飛なわけではなく、むしろありふれている。寂れた町での映画の撮影中、主人公たちが、主演の老優のNG回数などを賭け合う話(ゆえに『老人賭博』)で、骨子を先に聞いたらとても読む気がしないようなちまちましいストーリーなのだ。それを、読み出したら止まらないジェットコースター的展開にしてしまうのだから、恐るべき独創性である。
映画撮影のディテールの濃密なリアリティは、松尾の映画界での豊富な経験の賜物だろう。俳優や映画スタッフの心理描写も、すこぶるリアル。それでいて、展開は超シュール。そのギャップが、この小説を独創的なものにしている大きな要因だ。
芥川賞候補にものぼった作品だが、むしろ直木賞にふさわしい気がした。「映画撮影の舞台となった北九州の町が、史上最高に心ない賭博のワンダーランドと化す。爆笑がやがて感動に変わるハイパーノベル!」という惹句にウソはない。
すぎむらしんいちのマンガ版は、いまのところ、細部はアレンジしてあるものの、基本は原作に忠実。今後、どれくらいすぎむらのカラーが出てくるのか、こちらも大いに楽しみだ。
この原作にはすぎむらの大傑作『ホテルカルフォリニア』を彷彿とさせるところもあるし(ストーリーではなくテイストが似ている)、相性はバッチリだと思う。
- 感想投稿日 : 2018年11月8日
- 読了日 : 2011年4月4日
- 本棚登録日 : 2018年11月8日
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