著者は光文社に34年間勤め、雑誌と書籍それぞれの第一線を経験してきたベテラン編集者。話題を集めたブログ「リストラなう!」の主「たぬきち」と同時期に同社の希望退職(昨年)に応じ、その後は電子書籍出版ビジネスに挑戦したものの、失敗したという。
つまり、「電子書籍元年」とも呼ばれた2010年に、実際に電子書籍ビジネスの最前線に身を置いたベテラン編集者が、その経験をふまえた書いた電子書籍本なのだ。
そういう経緯ゆえ、昨年来続々と刊行された一連の電子書籍本のうち、最も悲観的・絶望的な内容になっている。
私も電子書籍本は何冊も読んできたが、困ったことに、いちばん悲観的な本書にいちばんリアリティを感じた。なにしろ、著者は電子書籍の可能性に一度は人生を賭けた人物なのだから、本書の悲観論には重い裏付けがあるのだ。旧世代の出版人がたんなる感傷から、「電子書籍にはぬくもりがない」とか言ってくさすのとはわけが違う。
全11章のうち、1~3章はひどく退屈。電子書籍の歴史や、キンドルやiPadをめぐる騒動の経緯などがまとめられているのだが、従来の電子書籍本に書いてあることのくり返しでしかない。そのへんのことをすでにわかっている読者は、読み飛ばすべし。
が、4章以降は著者の経験をふまえた生々しいエピソードが随所にちりばめられ、俄然面白くなる。
……いや、「面白い」といってはまずいか。なにしろ、4章から11章にさまざまな角度から書かれているのは、“雑誌・書籍・新聞といったプリント・メディアにいかに未来がないか”という話なのだから。
ただでさえジリ貧の出版界は、現在、電子書籍に新たな収入源としての希望を託している。だが、著者は「電子出版がつくる未来」は幻想にすぎず、むしろ電子書籍の普及が出版社のクビを絞めることになると説く。
そうした見立ての具体的根拠については本書に譲るが、いずれも私にはうなずける指摘ばかりだった。
《出版社も新聞社も自前のコンテンツのデジタル化を進めれば進めるほど、収益は上がらなくなっていく。そうして、その混乱のなかで、既成メディアを支えてきた多くの人間が失業する。
すでに、出版界も新聞界も人間のリストラに入っている。正社員はもとより、デザイナー、カメラマン、フリーライターは、いまこの時点でもどんどん職を失っている。
それを電子書籍が救ってくれるはずがない。(「はじめに」)》
フリーライターの1人としては、日頃漠然と感じている「先細り感」に具体的な裏付けが与えられていくようで、読んでいて気の滅入る本なのだが(笑)。
- 感想投稿日 : 2018年11月6日
- 読了日 : 2011年5月3日
- 本棚登録日 : 2018年11月6日
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