「学力」の経済学

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  • ディスカヴァー・トゥエンティワン (2015年6月18日発売)
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「教育経済学者」の著者(慶應義塾大学教授)が、自らの研究と見聞をふまえて書いた一般書。
データに基づき、経済学的手法で教育について分析する「教育経済学」のエッセンスが、わかりやすく紹介されている。

4年前(2015年)に出た本で、私は仕事の資料として読んだ。
30万部突破のベストセラーになっているそうで、昨年には本書のマンガ版(『まんがでわかる「学力」の経済学』)まで刊行されている。

私は「教育経済学」という言葉さえ知らなかったド素人だが、本書は大変面白く読んだ。

《教育経済学者の私が信頼を寄せるのは、たった一人の個人の体験記ではありません。個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性なのです。》(17ページ)

著者の指摘どおり、教育や子育てについての日本の論説の多くは、エビデンスを重視する科学的姿勢に乏しい。
子育てに成功した人(「子どもが全員東大に入った」とか)の体験を綴った本をありがたがって読んだりするわけだが、その個人的体験に普遍性はないのだ。

《子どもへの教育を「投資」と表現することに抵抗のある人もいるかもしれませんが、あくまでも教育を経済的な側面から見れば、そう解釈できるということにすぎません。》(74ページ)

本書には〝子どものいる家庭は年収の40%も教育費に使っている〟という、日本政策金融公庫の調査データが紹介されている。これほど多額のお金を子どもの教育に費やす以上、コストパフォーマンスが厳しく求められるのは当然だろう。
家庭では「投資」という言葉があまり使われないだけのことで、教育費は子どもの将来に対する「投資」にほかならないのだから……。

《過去日本が実施してきたさまざまな教育政策は、その費用対効果が科学的に検証されないままとなっています。》(116ページ)

そう指摘する著者は、データ、エビデンスに基づき、さまざまな教育の費用対効果・効率・収益率(!)などについての興味深い話を、矢継ぎ早に紹介していく。
たとえば――。

《どの教育段階の収益率がもっとも高いのか、と聞かれれば、ほとんどの経済学者が一致した見解を述べるでしょう。
 もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。》(76ページ)

情緒的でキレイゴト満載の「教育論」に慣れた目には、著者の冷徹でクリアカットな語り口が小気味良い。

教育について経済学的観点から研究する著者は、教育の現場にいる人たちから、しばしば次のような批判を浴びてきたという。

《「あなたの研究は、子どもはモノやカネで釣れるということを示すためのものなのか」
「教育は数字では測れない。教育を知らない経済学者の傲慢な考えだ」》(182ページ)

〝教育は聖域、教育者は聖職者〟みたいな時代錯誤の思い入れを、いまだ強烈に持っている人が多い世界なのだろうな。

しかし、これからの教育に必要なのは、著者のような視点のほうだと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済
感想投稿日 : 2019年10月16日
読了日 : 2019年10月16日
本棚登録日 : 2019年10月16日

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